声の国・ヴォックス 陽の月…-。
厳かなホールに、美しい重唱が響き渡っている。
ヴォックスで今度上演される歌劇『仮面と薔薇』鑑賞に招待された私は、シュティマさんのご厚意で、練習の様子を見学させてもらっていた。
(シュティマさん……大丈夫かな)
日を追うごとに、歌劇の完成度は増しているように感じるけれど……
シュティマ「……」
主役の『仮面の男』を演じるシュティマさんだけが、練習初日からずっと険しい雰囲気をにじませていた。
〇〇「シュティマさん、お疲れ様です」
客席に腰を下ろしている彼の隣に行くと、力なく手を振って応えてくれる。
シュティマ「〇〇、今日も来てくれたんだな。ありがとう」
〇〇「いえ……調子はいかがですか?」
シュティマ「うーん……もちろん、最初よりはよくなってきているけど」
シュテルさんは、首を傾げてから苦しそうに喉を押さえた。
シュティマ「情けない話だ……。 国の代表としての出演ってことに、妙に緊張してしまってるなんて。 何がなんでも、歌劇を成功させないといけないのに……」
シュティマさんがぼんやりと舞台を見つめる。
その横顔には、迷いがありありと浮かんでいた。
(シュティマさん、思い詰めてるみたい)
(何か……私にできることはないかな)
私は考えをまとめるように、彼と並んで舞台を眺めたのだった…-。