第5話 仮面舞踏会の夜

空に月が昇り、パーティ会場に華やかな音楽が流れ始める…-。

紫色のドレスをまとった私は、ジョシュアさんが選んでくれた髪飾りを身につけていた。

(すごい……まるで歌劇の世界に入り込んだみたい)

彼が待つホールへと歩きながら、私は心を落ち着けようと息を吐く。

中央の階段を下りると、そこは華やかな装いの人々で溢れていた。

その中でたたずむジョシュアさんはひときわ煌びやかで、すぐに見つけることができる。

ジョシュア「〇〇」

人目をさらいながら、ジョシュアさんは私に手を差し出して…-。

仮面越しの瞳が、吸い込まれそうなほど艶やかに輝いた。

〇〇「お待たせしました」

ジョシュア「よく似合っているよ。一段と素敵なレディになったね」

流れるような動作で私の手を取ると、ジョシュアさんはそっと甲に口づけを落す。

〇〇「ジョシュアさんが見立ててくださったからです」

ジョシュア「それは、光栄だな」

私は甘く痺れる自分を叱咤して、お辞儀を返すのが精一杯で……

ジョシュア「姫、一曲お願いできますか?」

〇〇「喜んで」

チェロの重厚な音色に合わせて、私達は足を踏み出した。

ジョシュアさんが、しなやかに私を導く。

ジョシュア「皆が君に見とれてる。それほど今の君は魅力的だ」

耳元の囁きに顔を上げると、ジョシュアさんの瞳が優しく細められた。

(よかった……私、ジョシュアさんとちゃんと踊れてる)

嬉しさを噛みしめながら、私はジョシュアさんに引かれるままに体を反らす。

ジョシュア「このステップは君に教えていなかったはずだけど……誰かに教えてもらったのかな?」

〇〇「……今日のこの日のために、練習しました」

(ジョシュアさんと、ちゃんと踊りたかったから)

それを告げるのは少し恥ずかしくて、私は口をつぐんだ。

ジョシュア「少し妬けるね……君の初めては、すべてオレであればいいのにと思っていたから」

〇〇「ジョシュアさん……」

吐息のような囁きに胸が高鳴って、彼に伝わってしまうのではと思うほどだったけれど……

時間は瞬く間に流れて、曲が鳴りやんでしまう。

(もう、終わりなんだ……)

この時間が終わってしまうのを寂しく思っていると…-。

貴族の男性「一曲、よろしいですか?」

(あ……)

ジョシュア「……」

何も言わずに礼をしたジョシュアさんが、そっと私を送り出してくれる。

離される手に、胸が切なく疼いた…-。

……

曲が変わるごとに、次々とダンスのパートナーが変わっていく…-。

けれど私は、他の女性と踊るジョシュアさんを、度々目で追ってしまっていた。

(今は、気持ちを切り替えなきゃいけないのに)

??「ジョシュア王子のことが気になりますか?」

〇〇「え?」

気づかれてしまった後ろめたさで、恐る恐る顔を上げると、パートナーの男性がにこやかに笑みを浮かべて、私の耳元に顔を寄せてきた。

??「実は、あの方のことで、あなたにご相談したいことが……。 先ほど、私の知り合いがジョシュア王子に名誉を傷つけられたと言っておりまして…-」

告げられた言葉に、急激にダンスで火照った体の熱が失われて……

(名誉?)

―――――

ジョシュア『失礼。彼女は姫君であって、気安く言葉を交わす相手ではありませんよ』

―――――

(ジョシュアさんがそんなことするはずは…-)

嫌な想像ばかりが頭に浮かんでしまう。

〇〇「もしかして……ラゼルさんが?」

ラゼルの知り合い「ええ……」

ラゼルさんの知り合いという男性は、悲しげに私を見下ろしていた…-。

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