第5話 欲望の満たし方

優雅な管弦楽の演奏に合わせ、仮面をつけた人々が華やかに踊っている…-。

観劇後、私とグラッドくんは歌劇を模した仮面舞踏会へと足を運んでいた。

(まるで、さっきまで観ていた歌劇の中にいるみたい……)

煌びやかなその光景に、私は深いため息を吐く。

グラッド「……」

けれど隣にいるグラッドくんは、退屈そうに天井を仰いでいた。

(グラッドくんは、あまり興味ないかな)

(ヴォックスに来たのも、晩餐会に出されるたくさんの料理が目的だって言ってたし……)

そうこうしているうちに舞踏会は終曲を迎え、今度は晩餐会へと切り替わる。

それもまた、歌劇の物語に合わせた進行だった。

〇〇「グラッドくん、歌劇の中に出てきた料理が再現されるみたいだよ」

グラッド「うん……腹が減った、早く食べたい」

ふと、先ほどのグラッドくんの言葉が頭によぎった。

―――――

グラッド『俺は満たされたことがない。満たされるってのは、どんな感じだ?』

―――――

(グラッドくんのあんな表情、初めて見た)

幾度か彼が口にする『満たされる』ということについて、私は考えを巡らせる。

けれど、はっきりとした答えを出すことはなかなかできなくて……

(お腹がいっぱいになることはもちろんなんだけど、それだけじゃなくて……)

(うーん……意外に、難しいな)

グラッドくんの方を向くと、視線が重なった。

グラッド「……ん? どうしたんだ?」

〇〇「ううん……。 これから出される料理が、グラッドくんを満たしてくれたらいいなって」

グラッド「……!」

言葉には表せない幸福感を、グラッドくんが感じられるようにと願う。

すると…-。

グラッド「〇〇」

グラッドくんの顔が間近に寄せられ、私は驚きに息を呑んだ。

〇〇「ど、どうしたの?」

グラッド「俺のこと、考えてくれてたのか?」

仮面をつけたグラッドくんは、どこか妖艶さをまとっていて……心臓が妙に騒がしい。

〇〇「うん……」

グラッド「……そうか」

仮面越しの彼の瞳が少し細められ、柔らかくなった表情に、今度は胸が甘くくすぐられた。

〇〇「……グラッドくん?」

次の瞬間、会場に準備された長いテーブルに次々と料理が用意され始めた。

〇〇「あ、グラッドくん。あっちを見て」

すると、会場中からどよめきが沸き起こる。

運ばれてきた料理は、盛りつけも歌劇さながらの華やかさを放ち……

その絢爛さは、私達を再び物語の世界に誘うほどだった。

(本当に豪華……)

〇〇「グラッドくん、すごいよ。舞台で見たままだね」

グラッド「……」

声を上げる私を、グラッドくんがじっと見つめる。

〇〇「何かあった?」

グラッド「どうしてそんなに喜べるんだ? あんたも、皆も」

グラッドくんは不思議そうな表情で、首を傾げる。

グラッド「皆、もう満たされてるのか? まだ食べてないのに……なんでだ?」

すがるように見つめられれば、彼から目を逸らすことはできない。

私は今度こそ、グラッドくんの問いかけに対するはっきりとした答えを探したのだった…-。

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