第5話 花咲く彼の笑顔

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マーチア『……君ってほんと。会話の弾まないお茶会くらいつまんない。 そんなんじゃ、いつまでたっても恋人の一人もできないよ?』

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その言葉の後……

マーチアさんは、私の反応をクスクスと笑いながら待っているようだった。

(アリスのことは……もうどうでもいいのかな?)

(でも、じゃあ何であのカップを、お部屋に大事そうに飾ってあったんだろう)

考えれば考えるほど、目の前の彼のことがわからなくなってしまう。

〇〇「マーチアさんって……わからない」

ぽつりとつぶやいて、もどかしい気持ちを抑えるように視線を地面に落とす。

すると…―。

マーチア「えっ、ちょ、ちょっと待って! ね、笑ってよ。なんでそんな寂しそうな顔するの!?」

私の顔を見て、マーチアさんは途端にその場でおろおろし始めた。

(……?)

マーチア「うわぁ、どうしよう……女の子を泣かせちゃうなんて、オレ男としてサイテーだ……」

〇〇「え……?」

(別に泣いてはいないけど……)

マーチア「ほらほらこれ見て! ワン、ツー、スリー、ポンっ!」

〇〇「!」

掛け声と共に、マーチアさんは被っていた帽子を手に取り、逆さに向ける。

〇〇「わ……!」

それと同時にその帽子から、いっぱいの花が飛び出してきた。

マーチア「ああもうこうなったらこれも。こっちのこれも! どんどん行くよ!?」

まるで魔法のように彼の指先が触れる先から、店の小瓶やカップより花や小鳥達が飛び出す。

いつの間にか、店の中はすっかり彼が取り出した花や小動物でいっぱいになって…―。

〇〇「すごい!」

彼の魔法に胸が弾み、自然と笑みがこぼれていた。

マーチア「!」

すると、彼はぴたりと動きを止めて……

マーチア「君、いいじゃん!」

〇〇「え?」

マーチアさんの顔に視線を戻すと、彼はそれまで見せたことのないような、無邪気な笑顔を私に向けていた。

マーチア「笑うと可愛い!!」

花が咲いたようなマーチアさんの笑顔が、まぶしくて…―。

(こんなふうに、笑うんだ……)

初めて見る彼の表情に、心がふわりと温かくなった。

その時…―。

店員「お客様……このようなことをされては困ります」

いっぱいに散らばった花や、ちょこちょこと動き回る小動物達を見て、店員さんが険しい表情で私達の方へやってきた。

マーチア「うわぁ、ごめん! 行くよ、〇〇ちゃんっ」

〇〇「え……!」

彼に手をぐいと引かれ、私達は逃げ出すように店を後にした…―。

店員「こらー! 待てーっ!」

マーチア「やっばいっ!」

店先からは私達を追って、店員だけでなく子ウサギや小鳥までもが追いかけてくる。

たちまちに、人通りの多いメインストリートは大混乱に陥ってしまった。

マーチア「あははははは、たっのしい~~!」

騒ぎをものともせず笑うマーチアさんにつられて、私の口元にも笑いがこぼれてくる。

〇〇「なんだか、おかしいね!」

大変な事態なのに、なぜだか気持ちが弾んで、彼に笑いかける。

マーチア「人生は楽しんでこそでしょ。ね、〇〇ちゃんも、もっと笑いなよ」

〇〇「え……?」

突然、ふわりと体が浮いたと思ったら……

私は、マーチアさんに抱き上げられていた。

〇〇「マ……マーチアさん!?」

マーチア「いつまでもつれないなあ。マーチアって呼びなよ」

(マーチア……)

胸の中でその名前を呼んでみると、くすぐったいような気持ちになる。

マーチア「ほらほら、笑いなって」

彼の右目の下の、二つ縦に並んだ泣きボクロがぐっと私に近づく。

マーチア「だって、君、笑った方が可愛いよ。 いつも真面目な顔してるから気付かなかったけど、君ってこんなに可愛かったんだね」

〇〇「っ!」

触れるだけのキスが頬に落ちてきて、その柔らかな唇の温度に、頬が熱くなった。

マーチア「ごめんよ、これまでヒドイこと言ったりして。謝るから今までのことはチャラにして?」

軽く唇に浮かべた彼の笑みは、まるで甘いお菓子のようで……

(まったく……)

甘い心地良さを感じながら、私も彼に微笑み返していた…―。

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