第3話 アリスのティーカップ

マーチアさんの住む城に滞在してそろそろ一週間が経つ頃…―。

マーチアさんは相も変わらず毎日のように街で遊び暮れるか、女の子を呼んでお茶会を開いてばかりだった。

(なんだか、がっかりさせちゃったみたいだし……そろそろ、帰ろう)

その旨を伝えようと、彼の部屋に訪れると……

マーチア「……」

マーチアさんは珍しく自室で、気だるそうに頬杖をついていた。

その視線の先には…―。

〇〇「……ティーセット?」

マーチアさんは、大して興味もなさそうに、戸棚の上に飾ったカップをぼんやり眺めていた。

マーチア「なんだ君か、オレに何か用?」

〇〇「マーチアさん……」

その眼差しがなぜだか気になった私は数秒、口を開くのをためらって……

〇〇「大切なものなんですか?」

マーチア「ん? これ??」

マーチアさんが戸棚に飾ったカップとソーサーを指差すのを見て、頷いた。

マーチア「うーん……大切、なのかなぁ? そもそもオレのじゃないし」

〇〇「どなたのカップなんですか?」

尋ねると、マーチアさんは唇や眉を歪めた後、つまらなそうにため息を吐いた。

マーチア「これ。もうずっと前に死んじゃった、オレのおじいちゃんの宝物なんだよね。 なんでもずーっと昔、このティーセットを使ってアリスとお茶会をしたんだって。 ちょうど、その縁の青いカップをアリスが使ったんだって、聞いてる」

〇〇「アリスって、不思議の国の?」

おとぎ話に出てくる、不思議の国のアリスのことを思い出す。

マーチア「それ以外にどんなアリスがいるの? このワンダーメアは不思議の国だよ。 突然現れた少女・アリス! アリスを中心に、たちまちにいろいろなものが集まって…-」

マーチアさんが急に立ち上がり、身振り手振りをつけながら、大仰に語り出す。

マーチア「この不思議の国は形成された!!」

〇〇「え…―」

けれどそこで、マーチアさんは再び気だるそうにため息を吐きながら椅子に深く座りこんだ。

マーチア「ま……アリスはずっと前にいなくなって、随分と様変わりしちゃったけど」

〇〇「……そうだったんですか」

(それで、彼は私とアリスを勘違いしてたんだ)

マーチア「ここらの連中はさ、アリス、アリスっていうけど。アリスのどこがそんなにいいのかねえ……」

マーチアさんは、可愛らしいカップを見ながらつぶやく。

〇〇「マーチアさんは、おじいさんにアリスのことを聞いたことないんですか?」

マーチア「ないよ。じじいは何聞いてもお茶会の話を繰り返すだけだったし。 よく一緒に遊ぶマッドハッターだって。 アリスのことは知ってるくせに、なーんも教えてくれない、ドケチでさ。 だからなんも知らない。でも皆のこと放って勝手に消えちゃうなんて、悪い奴に決まってるよ」

〇〇「……なら、どうして私がアリスじゃなくてがっかりしていたんですか?」

マーチア「……」

私の言葉に、マーチアさんはじっとティーセットを見つめた。

マーチア「だって嫌じゃん! 嫌いなヤツでも俺だけが知らないとかさあ」

(マーチアさん、本当は知りたいんじゃないのかな。アリスのこと)

そんなことを考えながら、じっと彼を見つめていると…―。

マーチア「何、その目」

マーチアさんの鮮やかな金色の瞳が、鋭く細められる。

〇〇「本当は、知りたいんじゃないんですか? アリスのこと」

マーチア「……なーんで君が、そういうこと言っちゃうかなあ」

彼はふいっとそっぽを向いて、また頬杖をついてしまう。

けれど…―。

マーチア「……そうだ」

いきなり、耳を勢いよく揺らして私の方に向き直ったかと思うと、立ち上がって…―。

マーチア「ならさ、君が一緒にオレとアリスのこと調べてよ! ね!?」

突然のお願いに、私は……

ゆっくりと頷こうとすると……

マーチア「いや、もう決まり! オレ決ーめた! だから一緒に街に行こう!」

〇〇「え…―」

マーチア「今日のオレは街で君とデートしたい気分なんだ」

戸惑う私の側に寄ると、マーチアさんが私の手を握る。

〇〇「だって、マーチアさん私に興味なかったんじゃ…―」

マーチア「気ーにしない、気にしないーっ!!」

そしてあっという間に、私は強引に街へ連れ出されたのだった…―。

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