マッドハッター「だから私は君をずっと試していたんです。新たなアリスにふさわしいかどうかを・・・・」
艷やかな声で名前を呼ばれて、私はじっと帽子屋さんを見上げることしかできなかった。
恐怖とも緊張とも違う、不思議な気持ちで、鼓動が速まっていく。
マッドハッター「初めの内は、ただ少し遊んで差し上げようかと思っていました。 でも君は本当に期待していた通りの少女で、私は君の心を知る度に、ひどく興味をかられてしまった」
○○「帽子屋さん・・・・」
細い指先が私の腕を滑るようにして、やがて頬を伝う。
帽子の細工をいとも簡単に縫いつけていた、あの器用な指先・・・・
マッドハッター「お嬢さん。私のような者にも、胸の中には子どものような好奇心を飼っているものなんです。 ですが、君が与えてくれたのは、私すら知らない私の奥底に眠っていた心・・・・。 大人が童心に帰り、子ども心に世界の変革を願う・・・・それは罪なことでしょうか?」
耳元で囁かれた問いに・・・・
(もし、世界の変革なんてことが起こったら、今ここに住む人達はどう思うんだろう?)
○○「はい・・・・ー」
小さくそう返事をすると、帽子屋さんがなぜだか嬉しそうに首を傾げた。
マッドハッター「ほう・・・・」
頬に添った彼の指先が、そっと私を撫でて、やがて名残惜しそうに離れていく。
マッドハッター「すみません・・・・今のは少し卑怯な質問でしたね」
私から視線を逸らすと、彼は私を解放した。
ほっと息を吐いたのも束の間・・・・
マッドハッター「私はこの先どうするか、既に答えを出しました」
○○「答え?それはどういう・・・・」
マッドハッター「○○嬢・・・・君をどうするか・・・・」
とくんと、彼の声にまた心臓が大きく跳ねる。
マッドハッター「ですから、もし私の答えが知りたければ・・・・ー。 三日後、最初にお茶会を開いたあの空中庭園に、君一人で来なさい。必ず、一人で」
○○「・・・・」
視線が一瞬、絡み合うけれど・・・・ー。
でも、すぐに帽子屋さんは闇に溶け込むように私の前から消えてしまった・・・・ー。