彼の部屋でアリスの写真を見つけた数日後・・・・ー。
私はマッドネスのとある繁華街に訪れていた。
(私、何してるんだろう)
そう思うけれど、あの一枚の写真に、まるで謎かけをされたような気分になって・・・・
(なぜだろう・・・・)
私は答えを求めるように、街を歩いていた。
(この辺りの路地に、帽子屋さんの店で一番古くから働いていた人が、独立して店を構えたって)
しばらく行くと目的の小さな店を発見し、私は扉を開けて店の中に入った。
○○「こんにちは・・・・ー」
店主「いらっしゃい。貴方が、マッドハッターさんの話を聞きたいと言うお嬢さんかい?」
微笑みを湛えながら店の奥から出てきたのは、人当たりのよさそうな男の人だった。
○○「はい。彼とアリスとの関係を知りたいんです・・・・」
店主「アリス、だって?」
男の人は、私の出した名前に微かに目を細める。
私はこれまでの経緯を説明し、アリスについて彼に話すと・・・・
店主「おかしな話だね。彼はワンダーメアにいる誰よりもアリスに詳しいはずだよ?」
(やっぱり・・・・)
・・・・
・・・・・・
その日の夜・・・・ー。
私はメゾン・マッドネスに戻り、帽子屋さんの部屋を訪れ、店主との会話の内容を伝えた。
マッドハッター「・・・・好奇心旺盛なお嬢さんだ」
その言葉を最後に、しばらく沈黙が続いたけれど、
やがて帽子屋さんは、諦めたようにため息を吐いた。
マッドハッター「・・・・これは、今までのようにはぐらかせる雰囲気ではないようだ。 それで?君は私にいったい何を尋ねる気で、ここに?」
○○「あなたとアリスの関係です」
そう言うと、帽子屋さんが目元を隠すように、シルクハットのつばをやや下げる。
マッドハッター「そう言うと思ってました」
帽子屋さんが、再び被っているシルクハットの角度を整える。
マッドハッター「わかりました、お嬢さん」
艷のある視線で、見つめられたと思ったら・・・・ー。
○○「・・・・!」
突然、彼の手が私の腰元に添えられた。
マッドハッター「場所を移動しましょうか?」
抱き寄せられ、低い声色で耳元に囁かれて・・・・
○○「・・・・」
私の動悸は、鳴りやまなかった・・・・ー。
・・・・
・・・・・・
彼が私を連れてきたのは、帽子屋『メゾン・マッドネス』だった。
マッドハッター「こうも心踊るのは、それこそ彼女がこの世界から消えて以来か」
月明かりが差し込む窓辺に立った帽子屋さんが、この上なく楽しげな笑みを浮かべる。
マッドハッター「そう、このワンダーメアの興りは、すべてアリスが姿を現したことにより始まった。 しかし、彼女はある日忽然と姿を消してしまった。 そしてこの世界は、彼女を失ったことにより奇妙な変貌を遂げていきました」
○○「どういうことですか?」
マッドハッター「アリスが歩いた森は、コンクリートジャングルに。 アリスが飲んだ芳醇な紅茶は、安いペットボトルのお茶に。 そしてアリスに関わった気の狂った者達は、至極まっとうな人間になってしまった」
(そんなことが・・・・?)
マッドハッター「もちろん、その変貌を受け入れた者も、受け入れられない者も・・・・ー」
帽子屋さんは、まるでオペラの一幕のように、歌うように語り続ける。
○○「アリスは、どこに行ったのでしょうか・・・・?」
マッドハッター「私も本当に知りません。消えた彼女を必死に探すものも、何人かいましたが・・・・。 まあ彼女の消えたこの世界も、概ね私は楽しんでいたのですが。 一つだけ!私は気になって仕方がなかったんです。 もしまた彼女のような存在がこの世界に現れたら、次はどのような変革が起こるのかと・・・・!」
すると・・・・ー。
(え・・・・)
すっと帽子屋さんの端整な顔が近づいたと思ったら、
私は彼に、店の陳列棚に背を押しつけられた。
マッドハッター「でもそんなのはイカレた私の妄想、そう割り切っていたところに、君が現れてしまった・・・・。 だから私は君をずっと試していたんです。新たなアリスにふさわしいかどうかを・・・・」
○○「私が・・・・?」
マッドハッター「ええ、○○嬢」
よく通る低い声が、初めて私の名前を呼んだ・・・・ー。