マッドハッター「では私ともっと多くの時間を共有しては?実は私の営む帽子屋で従業員に欠員が出まして・・・・」
こうして数日後・・・・ー。
私は帽子屋『メゾン・マッドネス』で彼の手伝いをすることになった。
(どうしようか、迷ったけれど)
帽子屋さんの優艷な笑みと仕草を思い出すと、不思議に彼のことをもっと知りたいという気持ちが湧いてきたのだった。
(なんて器用な手先・・・・)
思わず、店の奥で帽子を仕立てる帽子屋さんに視線を送ると・・・・ー。
マッドハッター「お嬢さん、手伝っていただけますか?」
私の視線に気づいた帽子屋さんが、手招きをしている。
おずおずと、彼に近づくと・・・・ー。
マッドハッター「そう、その帽子を被って、そのまま・・・・」
私に作りかけの帽子を被せ、彼は色とりどりの花を生地に縫いつける。
最初はただの布でしかなかったものが、魔法のように素敵な帽子へ型を成していく。
○○「すごい・・・・!」
その時、不意に私を迎えてくれた時の彼の言葉が頭をよぎった。
ーーーーー
マッドハッター「ようこそ、お嬢さん。この私、マッドハッターのお茶会へ。どうぞ、帽子屋とお呼びください」
ーーーーー
(マッドハッターって・・・・おとぎ話の『アリス』に出てくる、いかれ帽子屋さんのことだよね)
(狂ったお茶会を開いていたっていう・・・・ー)
私が被った帽子を愛おしそうに撫でる彼を、まじまじと見つめていると・・・・ー。
マッドハッター「イカレ帽子屋とかけて、手先の器用な紳士と解く、その心は?」
○○「え・・・・?」
またしても彼に問いかけられて、私は・・・・
(帽子屋と紳士・・・・いったいどんな共通点が・・・・?)
顎に手をあてて、考え込んでしまっていると・・・・ー。
マッドハッター「正解です。この問いに答えなどありませんから。 君の反応があまりに可愛らしいので、つい・・・・」
帽子屋さんは小狡い顔をして、手元を動かし続ける。
(わからない・・・・)
私は帽子屋さんと、彼の質問に瞳をまばたかせることしかできなかった・・・・ー。
・・・・
・・・・・・
その後・・・・ー。
彼は用事があると出かけてしまい、私は店番をすることになった。
(それにしても、次々にお客さんが来る・・・・)
客の女「この前頼んだ、アリスの刺繍の帽子はどうなったの?」
店員「はい!○○さん、マッドハッターさんの部屋から取ってきてくれる?」
○○「あっ、はい!」
私は帽子屋さんが仕立てに使っている部屋へ向かい、作業机の引き出しを開けた。
その時・・・・ー。
(あ・・・・)
帽子のしまってあった場所に一枚の写真があるのが見えた。
そこに映っていたのは見知らぬ少女と帽子屋さんで、写真の裏には『アリスと』とメモがある。
マッドハッター「ですがアリスに関する質問だけはタブーです。私も世で語られる以上のことは知りませんので」
(帽子屋さん・・・・アリスのことは知らないって言って
たのに)
(どうして、聞くなって言ったんだろう)
その写真が気になったけれど、ひとまず頼まれた帽子を持って、私は店頭へ戻った・・・・ー。
・・・・
・・・・・・
その夜、私は外から戻ってきた帽子屋さんに昼間見たことを伝えた。
マッドハッター「さあ、私にはなんのことだか・・・・それを聞いてどうするのですか?」
○○「特に意味はないんですが・・・・」
無感情に放たれた言葉に、私はそれ以上何も言うことができなかった。
掛け時計の針が進む音が、薄暗い店内に静かに鳴っていた・・・・ー。