第3話 マッドネスのご案内

マッドハッター「今週の日曜、この場所でお待ちしております、どうか賢いご判断を」

そして約束の日・・・・ー。

待ち合わせ場所で、私は帽子屋さんの姿を探していた。

すると彼は手に一本の真っ赤なバラを持って現れて・・・・ー。

マッドハッター「遅れて申し訳ない。ちょうど素敵な花を見かけたもので。 この花、綺麗でしょう。どうしてバラの花は赤いのかご存じですか?」

○○
「赤以外のバラもありますよね?」

帽子屋さんのハットと胸元についている紫色のバラを見ながら、私はそう聞き返した。

マッドハッター「おや、ロマンの欠片もない回答だ」

そういうと彼はしなやかに枝を折って、バラの花で私の胸元を飾った。

マッドハッター「さあ、出かけましょう、このマッドネスを回る甘いひとときに・・・・」

囁きかける彼の低い声色に、私は期待のような、不安のような気持ちを胸に宿していた・・・・ー。

こうして帽子屋さんが私をまず連れてきたのは・・・・

マッドハッター「こちらは、アリスが初めてお茶会に参加した場所と言われています」

(アリス?)

○○「アリスって、あのおとぎ話の?」

マッドハッター「おとぎ話。確かに、その呼び方もふさわしい」

(じゃあ、やっぱり・・・・でも、ここは普通のパーティホール)

○○「なんだか、想像と違いました。もっとこう、特別な感じのする場所かと・・・・」

マッドハッター「昔は違ったのでしょう。時の流れは残酷ですから。 そう、可愛らしいお嬢さんのその美貌も・・・・いつかはきっと。 アリスが少女のまま、このワンダーメアから消えてしまったように」

○○「え・・・・ー」

帽子屋さんは泣いたふりをして、目元をハンカチでぬぐう。

(アリスが消えた?)

マッドハッター「ところでもしアリスが少女ではなく少年だったら、この世界はどうなっていたと思います?」

脈絡のない質問に・・・・

○○「私には、わからないです・・・・」

マッドハッター「・・・・」

彼の瞳が、帽子のつばの陰で怪しげな光を放つ。

マッドハッター「くだらない質問をしてしまいましたね。それでは次に参りましょうか」

その後も、彼はデートと称して私をいろいろな場所へ案内してくれた。

そのどれもが『アリス』に深い関係があるようだけど、私の知る童話とは少し様子が違う。

(しかも意味のわからない質問ばかり)

彼は事あるごとに、私に答えのない質問を繰り返してくる。

○○「あの、帽子屋さん。さっきからの質問って意味があるんですか?」

マッドハッター「昔から、女性は少し謎めいた男に惹かれると言うでしょう?」

帽子屋さんは澄まし顔で、私の言葉の続きを待つ。

(そうなのかな・・・・?)

ただ緑の双眸は、いつも何かを試しているような雰囲気を漂わせている。

マッドハッター「ふむ・・・・どうしても気になるのなら、少しだけ真面目に答えますか。 ですがアリスに関する質問だけはタブーです。私も世で語られる以上のことは知りませんので」

(タブー?どういうこと?)

その言葉が気になったけれど、

とらえどころのない彼の気まぐれかもしれないと思って、別の質問をすることにした。

○○「それでは・・・・ー」

私は彼に関するさまざまなことを聞いた。年齢、好きなもの、それに・・・・

○○「夢はありますか?」

マッドハッター「もちろん。いつか空でお茶会を開きたく、空飛ぶ鉄の船の研究を少々・・・・」

回答してくれた帽子屋さんの表情が、柔らかみを帯びた気がした。

(まるで、幼い男の子の夢みたい)

だけど、結局は聞けば聞くほど謎が増すばかりで・・・・ー。

○○「私、なんだか帽子屋さんのことがわかりません・・・・」

私は素直な感想を、口にした。

マッドハッター「おや、私に興味が?」

帽子屋さんがハットに垂れさがるタグを弄びながら、不敵な笑みを浮かべる。

マッドハッター「では私ともっと多くの時間を共有しては?実は私の営む帽子屋で従業員に欠員が出まして・・・・」

(今さらだけど・・・・王子様が、帽子屋さんを?)

不思議に思って、彼を見つめていると・・・・

マッドハッター「王子・・・・その言葉が私にふさわしいかどうか。それもまた、一つの謎かもしれません。 確かに私はこのマッドネス領の主の息子ですが・・・・今はもう、帽子屋としての方が板についております。 領の行く末より、自分の店の経営状況の方が気がかりなのですよ」

冗談めかすように、帽子屋さんは肩をすくめて笑ってみせる。

○○「それで・・・・私にその欠員の代わりを?」

マッドハッター「ええ、それならば四六時中、私のことを観察できますよ?まあ、考えておいてください」

口元に嬉しそうに笑みを浮かべるのを見て、私はただ曖昧な相槌を打つに留めた・・・・ー。

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