人々が優雅に笑う声が、午後の日差しに溶けていく・・・・
帽子屋さんの主催するお茶会は、それは素晴らしいものだった。
マッドハッター「この紅茶などもいかがでしょう?こちら紅茶の国より仕入れた一級品なのです」
○○「素敵な香りですね」
彼は私をじっと見つめて、微かに口角を上げる。
マッドハッター「ところでお嬢さん、お茶会での一番素敵な紅茶の楽しみ方を知っていますか?」
私は彼の唐突な問いに・・・・ー。
○○「会話と一緒に楽しむことでしょうか?」
マッドハッター「ほう・・・・模範的な解答だ。 まあ、実際は、この問いに唯一の答えなどないのですが・・・・」
○○「答えがない?」
芳醇な紅茶の香りが漂うカップを手にしたまま、私は瞳をまばたかせる。
マッドハッター「つまり、楽しみ方など人の数だけ存在すると」
彼は持っているステッキをトンと地面で鳴らし、微かに笑みを浮かべた。
○○「だったら、今の質問にはどのような意味が?」
すると彼はカップを優雅に傾け、不敵な視線を私に送った。
マッドハッター
・・・・さあ?」
不思議な光を放つその瞳に、心まで見透かされそうで・・・・ー。
マッドハッター「おや、どういたしましたか?」
○〇「! いえ・・・・こんな素敵なお茶会に自分は場違いなのではないかと」
心を読まれたような気がして、私は焦って探し当てた言葉を口にする。
マッドハッター「気負うことはありません。君は主賓。私を眠りから覚ましてくれた感謝の意を表したくて・・・・」
○○「・・・・」
にこりともせずに答える掴みどころのなさに、つい言葉を忘れてしまう。
すると帽子屋さんは、静かに瞳を閉じた。
マッドハッター「どうやら私達には、互いのことをよく知るために、二人きりの時間が必要なようだ」
すっと胸元から取り出されたのは、一枚のカードだった。
角には、シルクハットのマークが描かれている。
マッドハッター「今週の日曜、この場所でお待ちしております、どうか賢いご判断を」
○○「賢いって・・・・」
マッドハッター「デートとでも、暇つぶしとでも、どうぞ君のご自由に」
もう一度だけ私に視線を送ると、帽子屋さんは踵を返して私の前から立ち去って行った。
(変わった人・・・・)
彼のとらえどころのない笑みを思い出すと、
最高級の紅茶の味も、私にはすっかりわからなくなってしまっていた・・・・ー。