第6話 研究の目的

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ルルス『街や城のヤツに何を聞いたかは知らないが、オレは天才じゃない。 そもそもオレは断言できる。この世に天才などいない』

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先ほど行った実験の結果を、ルルスは一心不乱に記録し続けている。

(ルルス……)

部屋に山のように積まれた記録や書物を見渡し、ルルスがどれだけの研究を重ねてきたのかを思い知る。

(……邪魔しちゃいけない)

そう思い、そっと彼の傍から離れようとした時…-。

〇〇「あ……」

ルルスの向かっている机の端から、一枚の書類が床に落ちた。

(これは……他国からの文書?)

見慣れない文字で書かれたその文書には、何やら公的な印章が押されていた。

〇〇「ルルス、それ…-」

遠隔がちに声をかけると、ルルスは手を止めて文書に目を向けた。

ルルス「ありがとう。大切なものだった。紛失したら大変だ。 危なかったな……」

ほっと息を吐きながら、ルルスは雑然としたラボを見渡す。

(確かにこの部屋の中の資料にまぎれたら探すのが大変かも)

私が苦笑すると、ルルスもつられるように笑い出す。

ルルス「なあ、アルケミアの国が精霊の国と友好関係にあるのは知ってるか?」

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従者『アルケミアは近くにある精霊の国とも友好状態を保っておりますから、精霊の種族もやってきます』

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〇〇「はい」

ルルス「なら話は早いな。実は精霊の国の王子達とオレは幼馴染なんだ。 そのおかげって訳ではないけど、フォイアの国のアークプラントって施設を支援していたり……。 他にもいろいろと世話になってるな」

そう言って彼は文書を机の上に置き直す。

ルルス「これは、精霊の力を錬金術で結晶化したものの注文書だ。 エリクシールの研究には金もかかるし、たまには稼がないといけない」

〇〇「そうだったんですか」

見ると、彼が数式を書き込んでいる黒板には、他にも同じような注文書が何枚も貼りつけてあった。

〇〇「研究を続けるもの大変なんですね」

ルルス「そうだな。けど、それがオレの生きがいだから」

(エリクシールを精製することが……)

この数日間のラボで見たルルスの姿を思い出す。

寝食も忘れて部屋にこもってエリクシールの研究を続ける彼…-。

〇〇「ルルス」

ルルス「ん?」

〇〇「エリクシールの精製に成功したら、いったいどんなことに使うんですか?」

ルルス「……何に、使うか?」

(あれ……?)

ルルスが目を丸くする。

〇〇「何か、目的があるから精製してるんじゃなかったんですか?」

ルルス「目的……理由……使用用途、か」

彼は首を傾げて、手にした杖の中にいる『コイツ』を見やる。

ルルス「オレは……もし理論上存在するのなら、求めるべきだと思っただけだ。 到達できる場所があり、そこへ向かうための道があるのならどんな方法を使っても模索するべきだろう。 錬金術師はそういう未知に魅せられた存在だ。オレもそう思って……この国で生きてきた」

〇〇「……つまり、精製すること自体が目的?」

ルルス「……そうなる」

ルルスは杖を両手で支え持つようにして目を細めた。

ルルス「けど、その先は……考えたことがなかったな。到達点の次か……。 究極の持っ室としてのエリクシールにたどり着くこと自体は錬金術師のロマンだ。 なんのために精製するのか……それがないと駄目か?」

求めるように視線を注がれ、私は自分の思いを口にした。

〇〇「街で、ルルスが生み出したものを見たんです。皆の生活をルルスが豊かにしたって聞きました」

ルルス「……」

〇〇「うまく言えないんですけど……ルルスには未来を作る力がある。 なら、ルルスが思い描く未来を実現させてほしいです。だって誰よりも努力しているから」

ルルスはじっと、私の言葉に耳を傾けていた。

けれど…-。

〇〇「ルルス……?」

そっと、私の指が彼の手に包み込まれる。

ルルス「未来……エリクシールの精製……」

触れた箇所から、彼の戸惑いが伝わってくるようだった。

ルルス「その理由についても、完成させる前にオレは考えておくべきか……」

ほこりっぽいラボの空気に、小さく発せられた声が混じっていった…―。

<<第5話||月覚醒へ>>


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