第5話 コイツは『コイツ』

アルケミアの街を一通り見終わって、城に戻る頃には陽が落ち始めていた。

―――――

従者『ルルス様は天才です。 それゆえ……ルルス様を理解できる方は少ないと思います』

―――――

従者さんの言葉が気になって、私はルルスに会いにラボを訪れていた。
 
〇〇「ルルス……いますか?」

ルルス「〇〇か、入っていいよ」

ラボの扉が開き、ルルスが私を迎え入れてくれる。

ルルス「ちょうど今からエリクシール精製のための実験をするところだ。見てくといい」

机の上に並べられた何やらさまざまな器具を指して、ルルスが挑戦的な笑みを浮かべる。

〇〇「この銀色の液体は……」

ルルス「駄目だ触るな! それは猛毒だ」

〇〇「え!?」

ビーカーに伸ばしかけた手を、強く掴まれた。

ルルス「触れてないな?」

ルルスは私の指先を丹念に調べ上げるように触って確かめる。

労るように触れられ、指先が熱くなった。

〇〇「ごめんなさい……ありがとう」

ルルス「怪我がなくてよかった」

そう言って、私の指から手を離そうとしたけれど……

ルルス「……」

じっと私の手を取ったまま、ルルスは微動だにしない。

〇〇「ルルス?」

ルルス「……綺麗な指だな」

〇〇「え……」

不意に発せられた一言が、頬を熱くする。

ルルス「……ああ、実験を見せるんだったな、待ってろ」

ルルスは私の手を解放すると、その場にあったさまざまな薬品を調合し始めた。

(さっきの、なんだったのかな? まだ少しドキドキしてる……)

彼に触れられた指先を触ってみる。

まだルルスの体温が残っているようで不思議な感じがした。

その後、彼は約束通りエリクシールに関わる実験を見せてくれたのだけど…-。

(あ……)

ルルスが手にしていた杖の先にあるフラスコの中で、白い毛玉の生き物が私をちらちらと見ている。

(すっかり、この子のことを聞きそびれちゃったな)

〇〇「あの、ルルスの手にしてる杖の中にいるそれって……」

ルルス「……これか?」

ルルスは実験の手を止めて杖を軽く振ってみせる。

すると白い生き物は毛を逆立てて、フラスコの中で怒ったように揺れた。

ルルス「前に手が滑って配合を間違えた時に誕生した。なんなのかはオレもわからん。生きてはいるらしいが」

〇〇「その子、名前はないんですか?」

肩を寄せ合いながら、二人でフラスコの中にいる不思議な生き物を見る。

ルルス「名前……考えたこともなかった。普段はお前やコイツと呼んでいるが。 となると、コイツの名前は『コイツ』……になるのか?」

隣を見上げると、ルルスは眉を寄せて首を傾げていた。

その表情は錬金術に夢中になっていた時とは違って、なんだかとてもかわいくて……

〇〇「ふふっ……」

ルルス「? なんで笑う?」

〇〇「ルルスってなんだかかわいいなって」

そう言うと、ルルスは意外だというように瞳を大きく見開いた。

ルルス「……かわいいなんて言われたのは初めてだ」

〇〇「すみません。実は、初めはルルスのこと、少しとっつきづらい人だって思ってたんですけど……」

ルルス「よく言われる。気にしてないし、気にしなくてもいい」

ケタケタと、フラスコの中で『コイツ』が笑っているように見える。

〇〇「でも、天才と呼ばれるルルスにかわいいだなんて、失礼…-」

そう言いかけた時だった。

ルルス「……」

ルルスの顔つきが、急に険しいものになる。

〇〇「ルルス……?」

ルルス「街や城のヤツに何を聞いたかは知らないが、オレは天才じゃない。 そもそもオレは断言できる。この世に天才などいない」

紡がれた言葉は意外なほど力強く、私は思わず息を呑む。

(あ……)

フラスコを撫でるルルスの手をよく見ると、薬品のせいか、ひどく肌が荒れてしまっている。

そして部屋には、大量の書物や難しい式の書き残されたメモが山とあった。

(天才だなんて言われてるけど……もしかしたらルルスは)

ルルスに視線を移せば、いつの間にか彼は実験の結果をまとめ始めていた。

(きっと……ものすごく努力をしてきた人なんだ)

その真剣な瞳に、胸が熱くなった…-。

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