第4話 案山子化計画

崩れ落ちていく右塔を前に、リーヤさんは重いため息を吐いていた…-。

(急に塔が崩れるなんて……何があったんだろう?)

リーヤ「あー……やっちまったー……」

リーヤさんが、気まずそうに帽子を深く被り……

それからすぐ、ばさりと顔を出して、短く深呼吸をする。

リーヤ「この分じゃ、左塔も駄目になっちまったかな……」

〇〇「あの、リーヤさん、これは……」

リーヤ「んー……巻き込んじまったし、ちゃんと説明するか」

リーヤさんは、苦笑いをすると私を自室へと連れて行ってくれた。

……

リーヤさんの部屋は、一風変わっていた。

頑丈そうな壁で作られた室内には、さらに上に昇る螺旋階段がある。

(何……これ)

リーヤ「そこ、勝手に登るなよ?頭へ通じる階段なんだけど、まだ開発途中だから」

〇〇「あたま……?」

リーヤ「後で話すよ……あー、その辺勝手に座っていいから」

(と、言っても……)

辺りには本や研究材料のようなものが散乱し、座る場所がない。

さらに、妙な機械もたくさんあった。

リーヤ「まあ……この部屋も、計画の一環なんだよ」

〇〇「計画?」

温かいお茶を用意してくれたリーヤさんが、カップを手渡しながら言ってくれる。

リーヤ「ああ。その計画ってのはさ。 実はこの国は、昔から因縁で、西の森のカラス一族に、よく国を荒らされてて。 俺は、それを根本からどうにかしてやろうと考えてる」

(カラス……そうか、だから目覚めた時もカラスにあんなに怒って)

(確か、執事さんも言ってたよね)

リーヤさんは心底悔しげに、唇を噛みしめる。

〇〇「どんな計画を考えているんですか?」

リーヤ「この国の奴らは、自分の脳みそで考えるってことを知らねえ。 だから俺一人で、今、この城を改造してる」

〇〇「……一人で、お城を改造?」

リーヤ「ああ、誰も頼りにならねーからさ」

〇〇「どうしてなんでしょう……」

リーヤ「あ?何がだ」

〇〇「どうして皆、リーヤさんばかりを頼ってるんでしょう……?」

リーヤ「そりゃ、昔は俺だって……」

〇〇「……?」

リーヤ「な、なんでもねー!」

私を振り切るように、リーヤさんは大きくかぶりを振った。

リーヤ「とにかく俺は一人で頑張る。 何せこの城ごと、案山子にしちまおうって算段だからな」

〇〇「え……?」

リーヤ「さっきのはちょっとした設計ミスだ。次はきっとイケる!」

〇〇「じゃ、じゃあ、頭って言ってたのは、もしかして……」

リーヤ「ああ、そこの階段は案山子の頭……見張り台に通じる階段だ!」

自信に満ち満ちた顔で、目を輝かせるリーヤさんだったけれど、思わず……

〇〇「お城を案山子だなんて、そんな馬鹿な……」

驚きすぎて、思わず口をついた言葉に…-。

リーヤ「あ!?今、お前、馬鹿っつったか!??」

〇〇「……!」

リーヤさんが突然、ひどく険しい顔になって私に詰め寄った。

その拍子に手からカップが落ち、壁に体を押しつけられる。

リーヤ「俺は馬鹿じゃねえ!」

〇〇「リ、リーヤさん……落ち着いてください!」

リーヤ「馬鹿って言われて落ち着いてられるか!!」

さらに語気荒く、リーヤさんが私に迫る。

〇〇「あのですね、リーヤさんが、馬鹿なのではなくて……。 本当にそんなことができるなんて、ってびっくりして……」

リーヤ「……つまり、馬鹿ってのは、言葉のあやか」

リーヤさんの鬼気迫る様子に、首を縦に何回も振ってしまう。

吐息もかかりそうな距離とその剣幕に、鼓動が速まっていた。

リーヤ「……じゃあ、許してやる」

〇〇「……ごめんなさい、リーヤさん」

リーヤ「……」

リーヤさんは、ゆっくりと私を解放すると、視線を逸らした。

気まずそうに瞳を揺らし、それから完全に背を向けてしまう。

〇〇「リーヤさん……?」

リーヤ「わりぃな……昔、オズワルドに知性をもらうまでは、本当に……その、俺、馬鹿だったし。 そんな自分がすっげー嫌だったから……あーっ、今の、忘れてくれ! それと……許してくれ。ちょっと、乱暴した。怖かったよな……?」

リーヤさんが目を伏せたまま、落ちたカップを拾い上げる。

〇〇「……大丈夫です。私も、言い方が悪かったから……」

リーヤ「じゃあ許すのか?」

〇〇「私のことも、許してください」

リーヤ「なんだよ、それ……」

リーヤさんが困ったような笑みで、顔を上げた。

その後、気を取り直して……

リーヤ「とにかく、この城を案山子にする計画も、おそらくあと少しで完成だ。 あいつら、ちょっとやそっとじゃ諦めてくれなさそーだからな。 この城を案山子にして、あいつらの嫌がるモンをたんまり仕込んでやる」

〇〇「……でも、本当にたった一人でするんですか?」

リーヤ「ああ、そうだ」

〇〇「その……私、お手伝いしちゃ駄目ですか?」

リーヤ「あ……?何言ってんだよ、できるわけねーだろ!」

〇〇「リーヤさんのように賢くはないかもしれないけど、お手伝いなら……」

リーヤ「じゃあ、何ができるってんだ?」

リーヤさんの瞳が、興味深そうに私の顔を覗き込む。

知的な瞳は、私の能力を簡単に見透かしてしまいそうで……

(で、でも、頑張ればきっと……!)

〇〇「書類の整理とか、あ、あと、疲れた時にマッサージとか……です」

(な、情けないけど……)

不甲斐なく思いながらも、リーヤさんの反応を待っていると……

リーヤ「ふっ……ははははっ! おもしれー奴! 何か新鮮だな!そうやって自分の頭で考えてくる反応。 すげーイイ!!」

〇〇「あ、あの……」

リーヤ「よし、採用だ!ま、俺の頭についてこれるよう頑張れよな!」

ぽんっと頭を撫でる手のひらが、とても優しく感じられたのだった…-。

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