冷たい月の光がカーテンの向こうで光っている。
私は言祝さんの部屋に来ていた。
整然と並べられた家具は、ほこり一つないと思えるほど綺麗に手入れがされている。
ベランダには、葉をつけた植物が植えられている小さな鉢植えがいくつか置かれていた。
言祝「・・・俺の唯一の趣味だよ」
言祝さんが愛おしそうに、緑色の葉をつけた植物に触れる。
言祝「育てているとね、なぜだか自分が生きてるって感じられるんだ。おかしいだろう?」
彼は自嘲気味に笑った後、手を後ろに組んで、ゆっくりと話し始めた。
言祝「・・・父上とメイの国の女王は、もともと友好的だった」
ソファに座り、憂いを含んだ表情で言祝さんは語り始めた。
〇〇「友好的・・・?」
言祝「アマツとメイが対立を始めたのは、ずっと昔のこと。 それから二国は、お互いの人民を奪い合っているんだ。 メイがアマツから人を連れ去る、アマツはメイから人を奪い返す」
〇〇「・・・信じられない」
言祝「信じられないくらい、馬鹿げた話だろう?でも、それは今も行われているんだ。 父と、メイの国の女王も、そんな争いが嫌だったんだ。お互いに通じて、二国を平和に導こうとした。 けれど・・・。 二人が王位に就いて、利権を考えるようになって・・・。 妥協点が見つからずに仲たがいをして、結局は争いを止めることはできなかった。 それどころか、争いはひどくなっていくばかりだ。 両国の間では誘拐だけじゃなく、時には人殺しさえも行われている」
彼は、深いため息を吐いた。
〇〇「言祝さんは・・・どう思っているのですか?」
言祝「俺は・・・」
〇〇「・・・言祝さんは、メイの国との争いを望んではいないように思えます」
言祝「俺が?おかしなことを言う、俺はこの国の王子だ。 第一王子として生まれ、その責務を全うする・・・それが俺の望みだよ」
望み、という彼の言葉がひどく空虚なものに感じる。
〇〇「本当に、それが言祝さんの意志なんですか・・・?」
私は立ち上がり、言祝さんに近寄った。
〇〇「言祝さんの、本当の気持ちが知りたいです。 本当に言祝さんが今のこの現状を望んでいるなら・・・そんなに辛い顔、しないはずです」
言祝「・・・。 〇〇・・・」
名を呼ばれ、私は思わず目を伏せる。
〇〇「ごめんなさい。差し出がましいことを」
謝る私に、言祝さんが口を開く。
言祝「〇〇・・・俺は・・・」
〇〇「もう遅いですし、そろそろ戻りますね」
彼の言葉を待たずに、私は逃げるように部屋を後にした・・・―。
自分の部屋に向かい歩きながら、私は後悔していた。
(事情もよく知らないのに、なんてお節介を)
(でも、辛そうな言祝さんを見ていられなかった)
その時・・・―。
〇〇「・・・!」
突然、無理やりに口を塞がれた。
(誰・・・!?)
何か薬品の匂いが鼻をつく。
ほどなくして、私は意識を手放した・・・
・・・
・・・・・・
言祝「どこに行ったんだ・・・!」
城中を探しても〇〇の姿がなく、言祝は焦りに表情を歪めた。
言祝「そこのお前。トロイメアの姫を見なかったか」
偶然通りかかった兵士に声をかけると・・・
兵士1「い、いえ、存じません」
兵士2「私達は何も・・・!」
言祝は無言で兵士の襟首を掴み、壁に押しつけた。
言祝「・・・言え」
兵士はあまりの恐ろしさに、縮み上がる。
兵士1「こ、国王のご命令なのです・・・」
言祝「父上が・・・!?」
言祝は、拳をきつく握りしめていた。