賑わう街並みを、私はカイネ君と一緒に歩いていた…-。
街道に立ち並ぶ店には、桃の花がディスプレイされている。
〇〇「そういえば、桃花祭ってどんなお祭りなの?」
ふと頭によぎった疑問を、私はカイネ君に聞いてみた。
カイネ「桃花祭は、女の子のためのお祭りなんだ! 女の子の健やかな成長を祝うお祭りで、桃の花を飾ったり、桃を食べたりする習わしがあるんだよ」
(もしかして、ひなまつりみたいな感じなのかな?)
前にいた世界の風習を懐かしく思い出す。
カイネ「あの、それで……」
カイネ君は何やら恥ずかしそうに言い淀んだ後、私をまっすぐに見つめた。
カイネ「ボクがキミをここに呼んだのは……」
(カイネ君……?)
〇〇「カイネ君、どうしたの?」
真剣な表情で見つめられ、私は首を傾げる。
カイネ君は何か言おうとしていたようだったけれど……
カイネ「えっと、その……やっぱなんでもない!」
その時…-。
街の人1「あっ、カイネ王子だ!」
カイネ君に気づいた街の人達が、嬉しそうに駆け寄って来た。
街の人1「カイネ王子!桃花祭の宴での挨拶、楽しみにしていますよ!」
街の人2「応援しています、頑張ってください!」
皆がカイネ君に向ける言葉は、どれもとても優しくて……
カイネ「ありがとう!頑張るから、皆楽しみにしててね」
彼明るく朗らかな笑顔が、その場にいる人々を和ませる。
その様子を微笑ましく見ていると、カイネ君と目が合う。
〇〇「カイネ君、人気者だね」
カイネ「えっ、そうかな……? キミにそう言ってもらえるのは嬉しいな」
おばあさん「おや、カイネ王子。今日はお散歩ですか?」
店先に立っていたおばあさんが、カイネ君に話しかけてきた。
カイネ「うん。桃花祭で賑わう街を歩きたいなって思って!」
おばあさんは私に視線を移し、にっこりと微笑む。
おばあさん「こちらは、カイネ王子の未来のお嫁さんかね?」
(私が、カイネ君のお嫁さん……!?)
〇〇「あの、私は…-」
答えに困ってカイネ君を見ると……
カイネ「……」
彼の顔が、真っ赤に染まっている。
(……あれ?)
照れているカイネ君を見ていたら、私の頬もなぜか熱くなっていく。
(カ、カイネ君は弟みたいな存在だし……)
頬に触れると、自分でもわかるほど熱い。
(カイネ君につられて、私まで赤くなっちゃた……)
私達を交互に見て、おばあさんはにこにこと嬉しそうに微笑む。
おばあさん「おやおや、本当に仲が良いんだね」
カイネ「……もう、おばあちゃん~!」
カイネ君が、困ったように声を上げた。
カイネ「〇〇さんは……お、お嫁さんとかそういうの……じゃ……」
恥ずかしいのか、カイネ君の声が次第に小さくなっていく。
カイネ「ごめんね、〇〇さん……」
〇〇「あ、ううん……私は別に……」
赤い顔でうつむく私達の横を、桃の香りを含んだ風が優しく通り抜けていった…-。