第3話 愛いっぱいのわがままを

スイーツを堪能した後、私達はカフェを出て街を見回した。

リド「さてと……次はどこに行くかな」

愛の日にちなんだ街の装飾は華やかで、見ているだけで心が躍る。

リド「新しい店がありすぎて、一日じゃ回りきれないかもしれないな」

リドが思案している傍で、私はふと、あるものに目が奪われた。

(あれは、なんだろう?)

少し先に視線をやると、宝石や花で彩られた馬車がある。

近くには恋人達がいて、看板を見ながら話していた。

女性「見て! 愛の記念写真だって。一緒に撮ろうよ!」

男性「やだよ、そんなの……恥ずかしいじゃん」

(……記念写真が撮れるんだ)

立派な木製のカメラを前に、恋人達が足を止めている。

(今日の記念にリドと一緒に写真が撮りたいな……)

けれど、目の前の恋人達は、男性が恥ずかしがって、結局その場を後にしてしまった。

リド「〇〇? どうかしたか?」

不意にリドに呼ばれ、私ははっとして……

〇〇「あ、ううん。なんでもないよ」

笑顔を作って、慌てて答える。

リド「ほんとに?」

リドは少し首を傾げて、私をうかがうように見つめていた。

リド「じゃあ、まずはあっちに行ってみるか」

〇〇「……うん」

返事をしたものの、やっぱり記念写真の馬車が気になってしまう。

(写真を撮りたいって言ったら、さっきの男の人みたいにリドも恥ずかしがるよね……)

二人で歩みを進めながらも、つい後ろを振り返ってしまうと…-。

リド「ん? 何か気になる店でもあったのか?」

〇〇「あ、ううん!」

笑って答えたけれど、リドには見透かされたようで……

リド「〇〇?」

足を止めて、じっと見つめられてしまった。

リド「行きたいところがあるんだったら、遠慮しないで言ってみろよ」

笑みを浮かべながら、リドは私を気遣うように問いかけてくれる。

彼の優しさに触れて、私は正直に言葉を紡いだ。

〇〇「リドと……記念写真を撮りたいなって思って。 実は、さっきのカフェの近くに写真が撮れる馬車があって……」

リド「記念写真……」

私の言葉を反芻しながら、リドが綺麗な瞳を数度瞬かせる。

(やっぱり、恥ずかしいかな)

彼の続く言葉を待たずに、口を開こうとしたその時…-。

リド「なんだ、そうだったのか!」

(え?)

リドの朗らかな声が、耳に響いた。

〇〇「……嫌、じゃない?」

リド「嫌なわけあるかって。すぐに言ってくれたらよかったのに」

彼は屈託のない笑顔を浮かべると、私の頭を軽く撫でた。

〇〇「……そうなんだけど。 男の人って、ああいうところで写真撮るの、恥ずかしくて好きじゃないのかなって」

語尾が小さくなると、リドは屈んで私の瞳を覗き込んだ。

リド「……あんたって、オレに気遣ってあれやりたい、これやりたいとか、あんま言わねえだろ?」

論すような声色を受け入れるように、私も彼の瞳をじっと見つめ返す。

リド「まあ、それも嬉しいんだけどさ。やっぱ……。 あんたにわがまま言われるのも、すっげー嬉しいっつーか……。 必要とされてる気がするし、なんか……かわいいって思うからさ」

リドは一旦言葉を切ると、意を決したようにひと呼吸吐いた。

リド「好きな奴のわがままだったら、なんでも嬉しいんだ。 だから、どんどん言えよ!」

(リド……)

リドの想いがまっすぐに伝わってきて、一人で抱えていた心の靄が晴れていく。

リド「それじゃあ、行くか」

そう言いながら私の手を引くと、リドは来た道を戻り始めた。

〇〇「ねえ、リド」

リド「ん?」

(私もちゃんと伝えないと……)

〇〇「ありがとう……」

リド「何言ってんだよ。当たり前だろ、こんなお願いならいつだって聞くぜ!」

(優しいな……それに)

(一緒にいると、すごくほっとする)

愛の日に彼といられる幸せを感じながら、私は繋いだ手をきゅっと握りしめたのだった…-。

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