雨に濡れる森には、さまざまな植物が生い茂っている…―。
ひときわ目を引いたのは、山葡萄のような形をした植物だった。
フォーマ「この国にはよく生えているようだが、初めて見る植物だ」
紫色の実は、どこか神秘的な雰囲気を醸し出している。
○○「食べられるのかな?」
フォーマ「わからない。だが、無闇に手を出さない方がいいだろう」
そう言った後、彼は森の中を見回す。
フォーマ「しかし、この森は興味深いな……」
○○「知らない草花がいっぱいだね」
フォーマ「ああ。サキアの研究室でも見たことのない草花ばかりだ」
彼は考え込むように、指先を口元にあてた。
フォーマ「毒草には詳しくないが……調べたらなかなか面白そうだ」
その声は、どこか楽しそうに弾んでいる。
○○「森に寄ったのは、植物を見たかったからなんだね」
フォーマ「ああ。以前、砕牙さんから聞いたんだ。この森は薬になる植物の宝庫だって」
お茶会に招待してくれた煌牙王子の弟である砕牙王子は、一族の長として国を守る兄に代わり多くの国を巡っていて、薬草や薬の知識も相当なものだという。
フォーマ「毒薬の国が天狐の国に学ぶところはたくさんある。 自国の発展のためにも、取り入れられるところは取り入れたい。 知識がなければ、利用されてしまうだけだ。争いにただ巻き込まれて終わるのは嫌だ」
(フォーマ……)
利権争いで命を狙われている彼の言葉が、胸に深く突き刺さる。
けれど……
フォーマ「……僕達の代で変えていければいいんだけど。 それに、内情が片づいたらきちんと外交もして、見聞を広めたい気持ちもある」
彼が紡ぐ言葉には、前向きな気持ちが込められているように感じた。
(フォーマ……変わったな)
そんな彼に驚くと同時に、嬉しさを覚えていると……
フォーマ「辛気臭い話をしてしまってごめん。けど、森に来たかったのはそれだけじゃない」
○○「え?」
フォーマ「もともと、森は静かで好きなんだ。だから、君と一緒に来たかった。 なのに、こんな話ばかりしてしまう……君には楽しんでもらいたいのに」
(そんなふうに考えてたんだ……)
少し気まずそうなフォーマに、私は笑みを向ける。
○○「うん。フォーマのことを知ることができて、楽しいよ」
フォーマ「そうか……よかった」
(それに私も、フォーマに楽しんでもらいたい)
私は、何か彼のためにできることはないかと思いを巡らせる。
そして……
(……そうだ)
ふわりと風が吹き抜けた瞬間、一つの案が浮かんだのだった…―。