やがてお茶会が始まり、静かな室内に茶せんの音が響き渡る…―。
(……少し緊張するな)
亭主を務める天狐の国の従者さんは、美しい所作で私達にお茶を点ててくれていた。
(粗相のないようにしなくちゃ)
隣を見ると、背筋を伸ばしたフォーマが凛とした佇まいで座っている。
その時、皆がお菓子を食べ終えたのを見計らったように、お茶が運ばれて来た。
フォーマ「お先に」
私にそう告げると、フォーマは前にいる亭主さんに視線を移す。
フォーマ「お点前、頂戴いたします」
彼は頭を下げると、右手で茶碗を持ち上げて左手に移し、軽く上に向ける。
そして正面を避けるように茶碗を回し、三口半で飲み干した。
(綺麗な所作……)
亭主「お服加減は、いかがでございますか」
亭主さんに尋ねられたフォーマは、爽やかな微笑みを浮かべていて……
フォーマ「大変、結構でございます」
彼は茶碗の飲み口を軽くぬぐうと、懐から出した懐紙で指先をぬぐい、先ほどとは反対に茶碗を回して畳に置いた後、少し眺めてから亭主さんに返す。
(すごいな。毒薬の国には、こういう文化はないはずなのに)
その流れるような所作は王子らしく、ひとつひとつの動作が優雅で淀みない。
そんな彼を誉めつつ、亭主さんは私を初めとする緊張した様子の招待客達に優しい笑みを向け……
亭主「どうぞ、あまり緊張なさらずに。 煌牙様より、皆様に楽しんでいただくようにと言われております」
寛ぐようにと促してくれる亭主さんに、ほっと息を吐く。
…
……
それから、お茶会はつつがなく進み……
フォーマ「○○、見てごらん。茶碗の色が君の着物に色と合っている。 それに、この柄も繊細で……君の雰囲気によく合っているな」
和やかな空気の中、人々は思い思いに会話を楽しんでいる。
○○「私はフォーマの方が似合うと思うな」
フォーマ「僕に?」
不思議そうな彼に、私は……
○○「うん。フォーマの着物の色合いとも、合ってると思うし……。 何より、さっきの……お茶をいただいてる時のフォーマ、すごく格好よかったから」
フォーマ「えっ? ……そ、そうか。少し驚いたけど、とても嬉しい」
フォーマが、顔を赤く染めながら微笑む。
フォーマ「だが僕も、最初から上手くできたわけじゃないんだ」
○○「そうなの?」
フォーマ「勿論。思わず茶碗を落としそうになったこともある」
○○「そんなことがあったんだ」
少しの間、フォーマと微笑み合う。
すると不意に、彼は先ほどよりも少し雨が強くなった庭園へと目を向け……
フォーマ「ここは……静かでいいな」
ぽつりと落とされた言葉が、優しい雨音に消えていった。
瞳を閉じ雨音に耳を澄ませるフォーマの横顔は、いつもより大人っぽく感じられる。
(こんな表情もするんだ……)
静かな雨音を耳にしながら、私は彼の横顔に見とれていた…―。