天狐の国・伊呂具 蒼の月…―。
晴れ渡る空から、細く穏やかな雨が降っている…―。
(綺麗……)
ふわりと雨の香りが漂う美しい中庭を、従者さんの案内で歩く。
ここは招待を受けなければ決して入ることのできない、とても神聖な国で……
私はこの国の王子である煌牙様からお茶会に招待されていた。
(毒薬の国の皆も招かれてるって聞いているけど……)
毒薬の国の王子達も縁あって、このお茶会に招待を受けているらしい。
(フォーマ、もう来てるかな)
彼との再会を楽しみに思っていた、その時……
○○「……あ」
向こうから毒薬の国・ファルテートの王子フォーマが、いつものように気難しい表情で歩いて来る。
再会を心待ちにしていた私は、思わず笑みをこぼした。
○○「フォーマ、こんにちは」
フォーマ「○○……」
美しい柄の着物と深い藍色が印象的な羽織をまとった彼は、眼鏡のフレームを指で押し上げると柔らかく微笑んだ。
けれどすぐに笑顔は消え、彼はじっと私を見つめる。
○○「どうしたの?」
フォーマ「その格好……似合っているな」
さらりと告げられて、私の胸は小さな音を立てた。
眼鏡の奥で揺れる黄色い瞳が、いつもよりも艶っぽく輝いて見える。
○○「フォーマも素敵だよ」
フォーマ「ああ、ありがとう」
そう答える彼の頬は、ほのかに色づいていた。
フォーマ「君も招待されていると聞いて、楽しみにしていたんだ」
(……嬉しいな)
○○「私もだよ」
フォーマは青い髪をふわりと揺らして、目を細める。
フォーマ「茶会の後は出かけよう。二人きりで」
○○「……! うん」
思いがけない彼からの誘いに、私は期待で弾む気持ちを抑えることができなかった…―。