第4話 届かなかった想い

イナミくんが国営図書館にこもっていると聞き、従者さんに案内してもらう。

イナミ「〇〇ちゃん! よくここにいるってわかったね」

奥の書架でたくさんの本に囲まれながら、彼は驚いたようにまばたきを繰り返す。

〇〇「もしかして……今までずっと調べてくれていたの?」

(本はあまり読まないって言ってから、大変だったんじゃないかな……)

イナミ「キミのためって思うと、たくさんの文字を読んでてもあっという間だったよ」

私が心配していることに気づいたのか、彼は優しい眼差しを向けながら頭を撫でてくれる。

イナミ「あの本だけど……元をたどると、こよみの国にあったものらしいんだ」

〇〇「え?」

イナミ「ほら、ここを見て」

イナミくんは積み上げられた本の中から一冊取り出し、広げてみせてくれる。

イナミ「こよみの国にいた血を吸う物の怪が、人間の女性に恋をした時のことを書いたもので……。 でも彼は、愛する人に気持ちを告げることも、会うこともできなかったんだ」

本には、そんな行き場のない苦しい想いがしたためられていたのだという。

〇〇「……物の怪にとっては、結ばれない恋だったんだね」

イナミ「だからといって、無関係のキミを巻き込んでいい理由にはならないよ」

イナミくんは私の言葉を聞いて、眉間に皺を寄せた。

イナミ「こよみの国にあった本が、どういう経緯でこの国に保管されているのかはわからない。 でも、とても危険なものらしいんだ。キミの痣も、もしかしたら……」

イナミくんが、まっすぐ私の瞳を見つめた。

イナミ「キミは、これ以上関わらない方がいいと思う。 痣のことはオレが調べるから、キミは安全な場所で待っていてほしい」

真摯な言葉が、胸をじんわりと満たしていく。

〇〇「心配してくれてありがとう。 でも私……イナミくんだけを危険な目に遭わせたくない」

イナミ「〇〇ちゃん……」

私を心配するように、彼の瞳が不安そうに揺れる。

〇〇「それに……私は、あの本のことを知りたい。 あの本が私を呼んだ時の声が、どこか辛そうだったから」

私は本に触れた時に聞こえた、切ない声を思い出す。

(大切な人に呼びかけているようで……)

〇〇「放っておけないって思えたの」

イナミ「……そっか」

イナミくんは諦めたように息を吐くと、私の頭に触れようと手を伸ばす。

けれど、その手はわずかに迷って、私の手を包み込んだ。

イナミ「……キミは優しいね」

温かな手が、私の手の甲を優しく撫でる。

イナミ「わかった。一緒に、この本を開いてみよう。 もし、悪いものが出てきたとしても……〇〇ちゃんのことを、オレが守るよ。 ……絶対に、何があっても」

握られた手に力が込められたかと思うと、そのまま彼の胸の中に引き込まれた。

(イナミくん……)

恋人同士のような近い距離間に、胸が締めつけられる。

けれど、見上げた先にあるのは、慈しむような優しい瞳で……

〇〇「ありがとう、イナミくん」

私はできるだけ大きな笑顔を彼に向ける。

そうしないと、彼への想いが溢れてしまいそうだった…-。

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