第2話 本から聞こえる声

古書を扱う展覧会場内には、どこか懐かしい匂いが漂っていた…-。

台の上に置かれた書籍の装丁や紙質からは、長い年月を経たことが感じ取れる。

イナミ「へえ、いろんな本があるんだね」

物珍しそうに会場を見渡していたイナミくんは、手近な本を一冊手に取る。

イナミ「〇〇ちゃんは、どんな本が好き?」

〇〇「私は小説を読むのが好きかな」

イナミ「もしかして、恋愛小説とか?」

〇〇「……いろいろだよ」

イナミくんの口から恋愛という言葉が出たことに、胸がざわつく。

イナミ「この中だったら、どれが面白そうかな?」

展示された本を眺めて、イナミくんは首を傾げる。

〇〇「イナミくんは、普段どんな本を読むの?」

イナミ「オレ?」

彼は私の質問に肩をすくめて見せ、くすりと笑う。

イナミ「実はオレ、そんなに本は読まないんだ。 本を読むより、体を動かすことの方が多いかな。 でも、だからこそこの機会を大事にしようって思ってるよ。シンにも勧められたし」

〇〇「そうなんだ」

イナミ「ここにある本って、誰かがすごいって思ったから今も大切に残されてるんだよね。 だから、キミのお勧めがあったら教えて? 一緒に楽しめると嬉しい」

不意に告げられた言葉に、胸が音を立てる。

イナミ「いい本が見つかるといいな」

歩き出す間際、イナミくんの手が私の頭を優しく撫でていく。

心地よい重みの余韻が消えないまま、私は彼の後をついて行くのだった…-。

……

イナミ「……」

(イナミくんには、どんな本がいいかな?)

展示された古書の間を歩きながら、彼に合う本がないかと考えていた。

その時…-。

(あれ? 床に本が落ちちゃってる……)

糸で綴じられた黒い古書が、展示台脇へ隠れるように転がっていた。

(どこに置かれていたのかな?)

不思議に思ってその本を手に取ると……

『私に気づいて……私を見てください……』

〇〇「!?」

本に触れた指先から、誰かの感情が体に流れてくるような感覚に陥る。

そしてうなじを何かに撫でられたかのような感触があり、一瞬、首筋が熱を帯びる。

(今のは……)

手にした本を開くこともできずに呆然としていると、いつの間にかイナミくんが傍らに立っていて……

イナミ「〇〇ちゃん、どうしたの?」

〇〇「この本を触ったら、声が聞こえた気がして……」

(それになんだか、首が熱くなって……)

うなじに感じた不思議な感覚を思い出し、思わず指で触れると……

それまで本を見つめていたイナミくんが、手を伸ばして私の髪に触れた。

イナミ「……ちょっとごめんね」

イナミくんは、壊れものに触れるように、私のおくれ毛をそっと避ける。

イナミ「! これは……」

目を見開いて驚く彼の表情が、私の心に不安を芽生えさせた…-。

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