第1話 変わらない笑顔

文壇の国・東雲 薫の月…-。

ほんのりと色づき始めた木々の葉を、風が優しく揺らしている。

文壇の国で行われる古書の展覧会に招待された私は、待ち合わせ場所に向かっていた。

(イナミくんに会えるの、久しぶりだな)

吸い込まれるような翡翠色の瞳を思い出すと、つい頬が緩んでしまう。

こよみの国で彼に出会った時のことを思い返しながら、道の角を曲がると……

イナミ「〇〇ちゃん」

通りの向こうから、優しい声が聞こえた。

手を振るイナミくんの姿に私は足を速める。

〇〇「ごめんなさい、遅くなっちゃって……」

イナミ「全然、時間通りだよ。オレが早くキミに会いたくて、少し前に着いただけだから。 それに、今から〇〇ちゃんに会えると思ったら、待ってる時間も楽しかったし」

彼は私の頭にふわりと手を乗せ、優しく撫でてくれた。

〇〇「イナミくん……」

(相変わらず優しいな……)

大きな手のひらの温もりを感じていると、彼に再会できた嬉しさが込み上げてくる。

イナミ「その着物、似合ってるね」

〇〇「え?」

彼は頭の上にあった手を離し、少し屈んで私の瞳を覗き込んだ。

急に近づいた距離に私が慌てていると……

イナミ「キミらしくて、かわいい」

屈託なく言う彼の言葉に、鼓動が一気に速くなる。

(でも、イナミくんは皆に優しいから……)

彼の瞳からそっと目を逸らし、私はなんとか心臓を落ち着かせる。

そんな私の心の内に気づくはずもないイナミくんは、綺麗な笑みを浮かべた。

イナミ「行こうか」

私の手を取り、展覧会の会場へと歩き出す。

その歩調は、私に合わせた緩やかなものだった…-。

第2話>>