第5話 涙味のカツ丼!

結局、私達はあまり役に立つ情報を手に入れられないまま、天国の湯まで戻ってきた。

手の中のカツ丼が、ここから移動する前よりわずかに冷めたように感じる。

勝生勇利「……」

(また、落ち込んでるのかな……)

〇〇「大丈夫ですか?」

勝生勇利「ごめん……全然大丈夫じゃない」

〇〇「ですよね……」

勝生勇利「メンタルが粉々になった気分」

皆、勇利さんを心配してくれたものの……

やっぱりカツ丼の姿がおかしかったのか、笑いをこらえ切れない様子だった。

〇〇「で、でも……同じ温泉に入れてみたらって…-」

勝生勇利「それも本当かなあ……酔っ払いのたわごとみたいな感じだったし」

(何も言えない……)

戻る方法を聞き回っていた時の皆の笑い声が、まだ耳に残っている。

〇〇「でも、戻るかも……しれないし……」

勝生勇利「いやまあ、そうなんだけど……」

ため息の代わりのように、カツ丼から湯気がひときわ大きく立ち上った。

勝生勇利「よし!」

〇〇「え?」

勝生勇利「ここで落ち込んでいるわけにもいかないし……僕、また同じ温泉に入ってみる!」

〇〇「勇利さん……」

勝生勇利「このままカツ丼で笑われて、どっかの猫に食べられるわけにはいかない。 僕は、人間に戻ってまたヴィクトルと一緒にスケートを滑るんだ!」

〇〇「私も手伝います!」

勇利さんの意気込みに私も勇気づけられた気がして、カツ丼を手に湯船の傍にしゃがんだ。

〇〇「勇利さん、いきますよ」

勝生勇利「うん……」

(ドキドキする……)

緊張に震える手からカツ丼が落ちないように持ち直して、そっと湯船に下ろしていく。

けれど…-。

勝生勇利「いや、やっぱちょっと待ってーー!」

〇〇「え?」

勝生勇利「今、僕がカツ丼になってるってことは……人間に戻った時、服を着てなくて全裸なんじゃ!?」

〇〇「……!」

辺りを見渡すと、勇利さんの服が温泉の下に沈んでいるのが見えた。

(じゃあ、今戻ったら……)

勝生勇利「こんなに至近距離で、今日初めて会った女の子に晒すのは……エロスどころか捕まっちゃうよ!」

〇〇「わ、私は後ろを向いているので!」

顔を背けて、私はカツ丼の勇利さんを少しずつ温泉の湯船に浸ける。

けれど…-。

勝生勇利「それも待って! お願い待って!」

〇〇「どうしたんですか?」

勇利さんの声に、私は慌てて離そうとしていたカツ丼を持ち直した。

勝生勇利「このまま温泉に浸かったら、具ってどうなるのかな……?」

〇〇「……具?」

勝生勇利「お湯の中に、カツとか卵とか、米が全部流れたら…-。 だって僕は今、カツ丼なんだよ! 具だって僕の一部、具がバラバラになったら、僕どうなるの?」

そう問われて、どう答えていいかわからなくて……

〇〇「……分裂……でしょうか?」

勝生勇利「分裂!?」

〇〇「小さい勇利さんがたくさん増えるとか……?」

勝生勇利「僕増えるの!? それ……どれが本物の僕になるんだろう……」

手の中のカツ丼がカタカタと震え出す。

〇〇「勇利さん、大丈夫ですか!?」

勝生勇利「もう駄目だ……僕……一生カツ丼のままだー!!!」

絶望的な叫び声が、虚しく響き渡る。

(どうしたら……)

崖っぷちに立たされたようで、途方に暮れかけたその時…-。

ヴィクトル「はあ~い!」

その人は、陽の光を後光のように浴びて私達の前に現れた…-。

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