第3話 地獄の湯?波乱の幕開け

勇利さんにヴィクトルさんの話を聞きながら、食事の時間が楽しく過ぎていく。

けれど…-。

勝生勇利「ごちそうさまでした。そろそろ理想郷の湯を探しに行かないと」

〇〇「そうですね」

勝生勇利「あの……」

〇〇「あの……」

お互いの声がかぶって、つい遠慮するように笑い合う。

(また、会話が止まっちゃった……)

せっかく打ち解けたと思ったのに、私達の間には再び距離ができ始めているような気がした。

??「お客さん達。せっかく廻天に来たってのにちょいと硬いじゃありゃーせんか」

勝生勇利「え?」

隣のテーブルを見ると、男の人がもの言いたげに私達の方を見つめていた。

??「せっかく男女二人でいるってのに、それじゃあいけませんよ。 廻天に来たからには心も体もほぐれにほぐれて、癒しに癒されなきゃー!」

勝生勇利「いや……誰?」

ガイド「仕方がない! あっしがガイドをしてさしあげやしょう!」

勝生勇利「いやだからっ……誰!?」

得意げに鼻の下を掻くガイドさんに、私達は……

〇〇「ガイド、お願いしましょうか」

勝生勇利「え……でも胡散臭いよ? 怪しさしか見えないけど」

ガイド「あんた、おとなしそうなわりに言うねえ。 まぁ、そう言わないで。廻天を楽しんでもらうのもあっしらの仕事でさぁ」

〇〇「でも……」

ガイド「あっしと共に来るのかい? 来ないのかい?」

勝生勇利「えー……」

三白眼の瞳に見つめられると、なぜだか断り切れないような気がして……

〇〇「はい……」

勝生勇利「……行きます」

私達はついガイドさんの言葉に頷いていた。

……

押し切るように道案内されて、私達は崖の切り立つ谷間へとやってきた。

ガイド「ここが、知る人ぞ知る廻天の秘湯『天国の湯』だ!」

勝生勇利「天国の湯?」

眼鏡を押し上げて、勇利さんは辺りの景色に目を凝らす。

ガイド「ただのお湯だまりだと思っちゃーいけやせん! ここはひとつひとついろんな効能を持つ特別な温泉なんですよ。 それにここは混浴ですぜ?」

〇〇「混……」

勝生勇利「……浴?」

思わず顔を見合わせると、勇利さんの顔が一瞬にして真っ赤に染まった。

勝生勇利「そんな気ない! 無理! いや……無理って逆に失礼!?」

首が取れそうなほど力いっぱい横に振る勇利さんに、私は……

〇〇「大丈夫ですよ、わかってますから」

勝生勇利「よかった! ほんっとよかったー!」

私から後ずさりを続ける勇利さんは、やがて温泉の一つに足を浸けてしまった。

勝生勇利「わっ!」

(危ない……!)

ガイド「あーそこは…-!」

水しぶきをまき散らして、勇利さんは温泉へと落ちた。

〇〇「勇利さん!」

ガイド「自分の姿が、他人に思われてるイメージになってしまう湯でさーね」

〇〇「他人に思われているイメージ……」

(勇利さんはスケート選手だから、皆きっと素敵なイメージを持っているはず……)

(だから、きっと大丈夫…-)

勝生勇利「ぶはっ!」

勇利さんの無事を確認しようと、もうもうと立ち込める湯けむりを手で扇ぐ。

けれど、声は聞こえるのに彼の姿はどこにも見当たらない。

勝生勇利「危なかったー! 危うく沈むところだった……お湯結構飲んじゃったけど」

〇〇「勇利さん、どこですか?」

勝生勇利「ここだよ、ここ。君の目の前にいるでしょ?」

〇〇「目の前?」

言われて湯けむりの中目を凝らしても、見えるのは辺りに広がる温泉だけで……

勝生勇利「そっちじゃなく、下だよ。でも……おかしいな。なんか目線が低い」

声がする方を見下ろすと、岩の上に一杯のカツ丼が置かれていた。

(どうしてここにカツ丼が……)

〇〇「まさか……?」

触れてもいないのに、カツ丼が岩の上でわずかに動いたような気がした。

その丼の側面に、勇利さんがかけていた眼鏡が取りつけられている。

〇〇「カツ丼……」

勝生勇利「カツ丼? ……へ? ぼ、僕カツ丼になってるぅぅううう!?」

勇利さんの絶叫が、辺りの岩肌に反響してこだました…-。

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