第4話 密かな思い

静まり返る廊下に、窓から月明かりが薄く差し込んでいる…―。

私達は診察の邪魔にならないようイブキちゃんの部屋を出た。

カゲトラ「朝と晩に点滴が必要なんだ」

○○「……そんなに悪いんですか?」

カゲトラ「治療は辛いが、続ければ直ちにどうこうなる病じゃない」

小さな体で治療に耐えるイブキちゃんを思うと、胸が苦しくなる。

カゲトラ「俺は街に行くが……来るか?」

○○「でも……」

カゲトラ「部屋の前でウロウロしてると、診察の邪魔になる」

○○「……わかりました。私も行きます」

カゲトラ「特に何もない街だが……」

そう言って彼は、歩いていく。

私達の足音だけが、廊下に響いていた…―。

妖しい光をまとう提灯が、夜の街を照らしている…―。

私はカゲトラさんが運転するバイクで、ヴィルヘルムの郊外にある街へとやって来た。

(なんだか、大人な雰囲気……)

辺りを見回しながら、カゲトラさんの一歩後ろを歩いていると……

怖そうな人達が、次々と彼に挨拶していく。

男性1「王子、ご無沙汰してます!」

カゲトラ「おう」

男性2「お疲れ様です、王子」

カゲトラ「元気そうだな」

男性3「王子、また飲みましょうよ」

カゲトラ「今度な」

(すごいな……カゲトラさん)

カゲトラ「あんな風貌だが奴らも作家だ」

○○「そうなんですか?」

カゲトラ「酒を酌み交わしながら、小説や国の未来について語ったり、な」

○○「カゲトラさんがマーグレットってことは……」

カゲトラ「知らねえよ。言う気もねえ」

彼は懐から煙草を取り出すと……

カゲトラ「吸うか?」

○○「気にしないで、どうぞ」

カゲトラ「悪いな」

彼は煙草をくわえ、火をつける。

幸せそうに煙草を吸う彼を見て、つい笑ってしまった。

カゲトラ「なんだ?」

○○「すみません。すごく幸せそうだから」

カゲトラ「妹や子どもの前では、控えてるからな」

(イブキちゃんや子ども達のことを大切に考えてるんだ……)

……

私達は、街が一望できる高台へやって来た。

暗闇に、街の灯りが点々と浮かび上がっている。

○○「……星空みたい」

カゲトラ「あいつと同じこと言うんだな」

○○「あいつ?」

カゲトラ「妹。一度、連れてきたんだ」

彼は二本目の煙草に火をつけた。

○○「やっぱり……絵本を描くきっかけになったのは妹さんですか?」

彼は静かに煙を吐き出す。

カゲトラ「……痛みで眠れない妹に母親の真似をして絵本を読み聞かせたら、すっげえ喜んで……。 あの時の笑顔が、きっかけだ。 できた絵本を見せたら、あいつ大喜びしてさ……。 初めて心から達成感っていうか、大きな喜びを感じた。 それから描き続けてる。幸せな結末の絵本だけを」

彼の思いに、私の胸は熱くなる。

(ハッピーエンドに拘るのは、きっと……。 イブキちゃんや子ども達に、希望を持ってもらいたいからなんだ)

カゲトラ「……しゃべりすぎたな」

カゲトラさんはそうつぶやき、苦笑する。

○○「いいえ、聞けてよかったです。 優しくて、温かくて……カゲトラさんの絵本を読んで、私はそんな気持ちを抱きました」

カゲトラ「……」

○○「子ども騙しの作品なんかじゃない……子どものための作品なんだって、そう思います」

カゲトラ「……ありがとよ」

彼の瞳が、私を静かに映し出している。

夜空の満月が、静かに私達を見下ろしていた…―。

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