第5話 二つの選択肢

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ジェット「俺、本当は自分の演技が好きになれねーんだ。確かにこのまま燻ぶってちゃカッコわりーよな……俺もいつかは覚悟、決めねーと。そう、わかっちゃいるんだけどな……」

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ジェットさんが胸に抱えていたものを知ったあの日から、数日後…―。

宿として借りている城の一室を出ると、何やら騒がしい声が聞こえてきた。

(何かあったのかな?)

気になって、声の聞こえた方に行ってみると……

映画関係者1「お願いします、このスタントはジェットさんにしかもうお願いできないんです!」

映画関係者2「それよりも我が社の映画に!監督がジェットさん以外、主役は考えられないと言ってるんです!!」

ジェットの姉1「けどこの日程じゃねえ、アンタはどう?」

ジェット「……」

制作会社の人達が、ジェットさんに出演の話を持ち掛けているらしい。

必死の出演交渉は、しばらく続くようだ。

ほどなくして、制作会社の人達は映画の資料を置いて帰っていった。

○○「あの……今のは?」

ジェット「お前、聞いてたのか」

○○「すみません。廊下の向こうまで聞こえてきて」

話をしていると、お姉さんは資料をジェットさんへと差し出した。

ジェットの姉1「これ、ちゃんと目を通しておきなさい、決めるのはアンタなんだから」

ジェット「……わかってるよ」

お姉さんは資料をジェットさんに手渡すと、城の奥に去って行った。

○○「……」

ジェットさんと二人残されたその場は、やけに静かに感じた。

ジェット「○○、ちょっといいか?」

不意に、ジェットさんの声が私の名前を呼んだ。

○○「えっ……」

(今、初めて名前を……)

慌てて頷くと、ジェットさんは私を連れて城の外へと歩き出した。

……

城の裏手には、広い花畑が広がっていた。

ごみごみとした街中にはない穏やかな風景に、胸いっぱいに空気を吸い込む。

ジェット「それで、さっきの話なんだけどよ、ちょっとお前の意見、聞かせてくれないか?」

○○「えっ?意見というと?」

ジェット「ああ、わりぃ。説明がまだだったよな。どうも俺、せっかちでよ」

ジェットさんが、決まりが悪そうに頭を掻く。

ジェット「さっき来た制作会社の奴ら」

○○「お二人、いらっしゃっていましたね」

ジェット「ああ……どっちも、俺にぜひって出演の依頼にきたんだけど、撮影時期がモロ被りしてんだ」

どちらも、必死でジェットさんに交渉していたことを思い出す。

ジェット「どっちにすべきなのか……悩んじまって。ほら、俺、根が単純だから。その点、お前に聞いてもらえば安心かなって」

と、拳を突き出して、私の肩に軽く押し当てる。

(頼られてる……?)

そう思うと、少し嬉しくなる。

ジェットさんから聞いた出演依頼の詳しい話はこうだった。

一つはダブルとしてではなく主役として、スタントもできる俳優としての映画への出演。

もう一つは、スタント役が大怪我により降りてしまったという、危険の伴う映画のダブル……

ジェット「姉貴達はああは言ってるけど、ホントは役者としてデビューして欲しいんだと思う。けど資料を見ると、ダブルの方も俺以外この国にこなせるような奴はいねー……」

○○「難しいですね」

先日ジェットさんから彼の抱える本当の悩みを聞いた。

それを知るからこそ簡単には決められない。

○○「でも私は……」

ジェット「なんだ?」

食い入るようにジェットさんが私を見つめ、両肩を掴む。

私よりも大きな手にこうして掴まれて、真っ直ぐに見つめられると……。

(どうしよう……)

ジェット「頼む、聞かせてくれ!」

彼の瞳は真剣で、私の心を震わせた。

○○「私は……すみません、やっぱり軽々しく意見はできないです。ジェットさんが自分で……」

ジェット「……そうか。だよな、最後に心を決めるのは、俺しかいねーもんな」

ふっと、私の肩を掴むジェットさんの手の力が緩む。

ジェット「けど、お前に聞いてもらえてよかったよ。よし……!筋トレでもして、頭スッキリさせてからよーく考えてみるか!」

彼が自分の両頬をパンと叩いて、天を仰ぎ見た。

太陽の光に照らされたその表情に、彼の心が垣間見える。

その凛々しい横顔に、迷いはもう感じられなかった…―。

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