第3話 歯がゆい気持ち

翌日、私はジェットさんに誘われて…―。

彼がスタントを務める映画の撮影現場にやってきていた。

緊張感が漂う現場に、私の胸もドキドキと音を立て始める。

監督「よーし、シーン213行くぞ!」

(あ、撮影が始まった……!)

今回の映画は、国民的俳優のダブルをこなすことがジェットさんの役割らしい。

(ダブル……えっと、確か……)

ーーーーー

ジェット「ダブルってのは、つまりスタントのことだな。背格好の似たヤツしか務められねーけど、危ないシーンの撮影なんかを肩代わりするんだ」

ーーーーー

撮影現場に来る前に、ジェットさんが教えてくれたことを思い出す。

その間にも目の前では、真剣を使った、危ないワイヤーアクションの撮影が進められていく。

(わ……!)

宙吊りになった状態で、華麗に決められる蹴りやバク転の数々……その迫力のある動きから目が離せない。

(ジェットさん、すごい……!)

危険なアクションをこなすジェットさんは、すごく生き生きとしていて……私は彼の撮影の様子を夢中になって見続けた…―。

……

監督「はい、カット!一度、休憩入るぞー」

緊張が解かれ、現場の雰囲気が一転する。

私も思わず止めていた息をゆっくりと吐き出して、ジェットさんの元に向かった。

○○「お疲れ様です!」

ジェット「おー、どうだった?初めて見た感想は」

○○「すごかったです……息が止まってしまうかと思いました」

思い出すと、まだ胸が熱い……

ジェット「ははっ、そんだけ感動してくれんなら、連れてきたかいがあったよ」

得意げに鼻を鳴らし、ジェットさんが私の頭の前に手を突き出したかと思うと……

○○「……っ!」

その手に、私の頭がくしゃくしゃと掻き撫でられた。

(嬉しそう……)

喜んでくれる彼を見て、私はくすぐったい気持ちになった…―。

……

こうしてしばらくジェットさんと今日の撮影のことを話していると、私達の近くを、監督と主演の俳優さんが通りかかった。

監督「だからね、私としては主人公の抱える内面の苦しみをぐっと前に押し出したいんだよ」

主演俳優「なるほど、なら次のシーン46だと、もっと…―」

二人は真剣な様子で、演技や演出の方向を探っているようだった。

ジェット「……」

その様子を、私の隣にいるジェットさんもじっとうかがっている。

(ジェットさん?)

その瞳は、さきほどの撮影の時と同じくらいに真剣で……

○○「そういえば、俳優として演技の仕事はしないんですか?」

ジェット「は?俺が?」

昨日、ジェットさんのお姉さんが言っていた言葉を思い出す。

ーーーーー

ジェットの姉1「アンタも才能はあるんだから、いつまでもスタントなんかに拘ってるのはやめなさいよ。お父様やお母様も期待してるんだから、早く演技に向かい合いなさい」

ーーーーー

ジェット「俳優は志望しないのかってことか?」

○○「……はい」

ジェット「……」

ジェットさんは私から視線を外し、監督達を見つめている。

しばらくすると、何か思いつめたような表情で口を開き始めた。

ジェット「ま、ウチはアクション俳優一家だからな……いつになったら俳優として銀幕デビューするんだって、周囲が俺にも期待をしてんのは知ってるよ。けど、俺はスタントの仕事にプライドを持ってる。たとえ表には出ない仕事だとしても、名スタントなしに名作品は生まれねーんだ。スタントだけじゃねぇ、監督や、音響や、道具だって……何だって、プライドを持って皆がやるからこそ、名作品が生まれるんだ。お前だって、そう思わねーか?」

○○「私は……演技をするジェットさんも見てみたいです」

さきほど監督達を見つめていたジェットさんの眼差しを思い出して、私は彼にそう伝えた。

ジェット「……そうか」

そうつぶやいて、ジェットさんは肩を落とした。

ジェット「なんで……皆にわかってもらえねーんだろうな……」

寂しげにつぶやかれた言葉は、誰にも届かないまま置き去りにされているようで……私は胸の奥が締め付けられるような気持ちになった…―。

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