第5話 街のデート

翌日…―。

雨は朝方に上がり、爽やかな空気が辺りに満ちている。

昼下がり、イリアさんに連れられて市街地に出ると、私は賑やかな大通りに目を奪われた。

〇〇「本当に魔法の世界……」

魔法の花火が空に上がり、色とりどりの花びらに変わっていく。

〇〇「イリアさん、あれも魔法ですか?」

虹色に輝く噴水を指差し、イリアさんを見上げる。

けれど……

イリアさんはどこか落ち着きなく辺りを見渡している。

〇〇「どうかされましたか?」

イリア「ああ、すみません……」

私の瞳に気づいて、彼がハッと私を見下ろした。

イリア「案内すると言っておきながら……お恥ずかしい話、実はあまり市街地に来たことがないのです」

〇〇「そうだったんですか……」

イリア「幼少の頃は病弱だったので、城の中庭で本を読んだり、勉強ばかりしてきました。 けれどこういう時に思い知らされます。 知識よりも実物を見た方が何倍もためになると……。 街も、昨日の夜に案内する場所を調べておいたのですが……地図と実際の街は違いますね」

そう言って、イリアさんは恥ずかしそうに笑う。

(私のために調べてくれたの……?)

〇〇「私、イリアさんに無理をさせてしまったのではないでしょうか?」

イリア「それは違います」

イリアさんは、慌てて首を横に振った。

イリア「今日もまた、今まで自分が気づかなかったことや知らなかったことに出会えた。 〇〇様のおかげです。感謝してもしきれませんよ」

イリアさんが街を見上げて楽しそうに笑い、

イリア「……スマートに案内できない自分が恥ずかしいですが」

少し恥ずかしそうに肩をすくめた。

そんな彼の瞳が、街角の一点に吸い込まれる。

イリア「あれはなんでしょう……?」

魅入られたようにつぶやいた彼の視線を追うと、そこは屋台のジェラート屋だった。

〇〇「あれは……ジェラート屋さんじゃないでしょうか」

イリア「それはわかるのですが……あの、三角の物体はなんでしょう?」

よく見ると、ワッフルでできた三角のコーンがいくつも重なっている。

〇〇「あれは、ジェラートを入れるコーンじゃないですか?」

イリア「コーン。コーンにジェラートを入れるのですか?」

(もしかして……お皿に盛りつけられたジェラートしか知らないのかな)

〇〇「どうしますか?」

イリア「食べられるのであれば、是非試したいです」

ジェラート屋さんへ足早に歩み寄っていった。

ジェラートを二つ買い求めると、嬉しそうに自分のコーンの端をかじる。

イリア「素晴らしい……手持ちまで食べられるとは……しかもおいしいですね! それに、立ちながら食事をするなんて初めてです」

(イリアさん、楽しそう)

ひんやりと喉を通るジェラートが、いつもより甘く感じられた。

(楽しいな……!)

その時、いつの間にか日が沈み始めていることに気づく。

(なんだか、時間が過ぎるのが早い)

イリア「そうだ、あの丘に行きませんか?」

ふと思い出したように、イリアさんがそう提案した。

イリア「あそこからは国全体が見渡せるんです。景色がとてもよくて、是非貴方にお見せしたい」

そう話すイリアさんの口の端にはコーンのかけらが少しついていて、私は思わず頬を緩める。

そっと手を伸ばしてコーンを取ると、彼の瞳が恥ずかしそうに瞬いた。

イリア「す……すみません!」

キラキラと輝く彼の瞳を見つめていると、私の胸が微かに跳ねる。

〇〇「私、行ってみたいです!」

そっと胸を押さえてそう言うと、彼は満面の笑みを浮かべた。

イリア「では早速……」

そう言いかけて、イリアさんはハッとした顔をしてから、懐中時計を取り出した。

〇〇「イリアさん?」

短く息を吐き、イリアさんは明らかに落ち込んだ様子で顔を伏せる。

イリア「……つい、忘れるところでした。今日は母上と晩餐の約束が……」

向かおうとしていた丘に、彼は再び目を向ける。

迷いを含んだ瞳が、夕日に照らされ揺らめいていた…―。

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