イリアさんに城の中を案内していただき、奥の部屋へ向かうと、そこでは王妃様が私を迎えてくださった。
イリア「母上、この方が私を眠りから目覚めさせて下さった姫です」
王妃「イリアを助けてくださり、何とお礼を申し上げればいいか」
王妃様は、私に恭しく頭を下げる。
〇〇「いえ、そんな」
王妃「イリアは、次期国王となる大事な存在。イリアがいない間、国中の灯が消えたようでした」
イリア「母上、大袈裟ですよ」
困ったように微笑んで、イリアさんは私にそっと目配せをする。
イリア「かしこまらないでくださいね、〇〇様。母は昔から心配性なんです」
彼はそう言って優しく目を細めて見せた。
けれど……
執事「いえ! 決して大げさではありません」
執事さんの言葉に、傍にいた皆さんが大きく頷く。
イリア「まいったな……」
視線を一身に受け、イリアさんが困ったように頭を掻く。
(本当にイリアさんは、皆から信頼されてるんだ)
イリアさんの整った横顔を見上げた、その時……
大臣1「イリア様、申し訳ありません。急ぎご相談したいことが……」
随分と慌てた様子で、一人の男性が近寄ってくる。
イリア「外務大臣。構いませんよ。どうしました?」
大臣1「先方が急に、例の条約に関して議論したいと言い出しまして……」
イリア「ああ、想定はしていました。準備はできていますので、私が使者を手配します」
大臣1「お手数をおかけして申し訳ございません」
その人が去ると、今度は王妃様の後ろに控えていた男性が遠慮がちに口を開く。
大臣2「あのう、イリア様。歓迎パーティのことなのですが……」
イリア「その件なら、王からの許可はもう貰っています。構わず進めてください」
大臣2「ありがとうございます!」
イリアさんは、にこやかに笑ってお礼に応える。
(皆さんが頼りにするのもわかるなあ)
優しい物腰と迷いのない返答に、思わずため息が出た。
イリア「申し訳ありません、お待たせしてしまい……」
〇〇「いえ、私のことは構わず。でも、イリアさんってすごいですね」
素直な気持ちを伝えると、イリアさんが少し頬を赤くさせた。
イリア「……そうでしょうか?」
青い瞳を瞬かせるイリアさんに、私は……
(謙虚な方だな)
肯定するように微笑むと、イリアさんの顔がますます赤くなった気がした。
イリア「あ、ありがとうございます……」
イリアさんが、赤くなった顔を隠すように片手で自分の頬を覆った。
さっきまでの凛々しい姿とは違うイリアさんの表情に、私の頬が緩む。
(なんだか、可愛い方だな)
イリア「そうだ、使者を手配しないと……」
まだ顔を赤らめながらも、彼は執事さんに指示を出す。
伸びた背筋が、とても頼もしく見える。
イリアさんと過ごすこれからの時間に、私の胸が弾み出していた…―。