水鏡が映し出した運命の相手は…―。
アフロスに来たときより、妙な視線を私に投げかけていた男だった。
アヴィ「お前は……オルガ!」
オルガ「おや、これはこれは久しいですね、アヴィ王子」
オルガと呼ばれた男性は、勝ち誇ったかのような表情でアヴィを見やった。
○○「アヴィ、知っているの?」
アヴィ「昔、アルストリアの貴族内で、領土統治についての話し合いが行われたときに参加してた男だ」
オルガ「そう……あのときは国の王子たる貴殿と意見が合わず。 僕の意見は国王に退けられてしまったのだったかな」オルガさんは、忌々しげに眉を寄せ、アヴィを上から睨む。
オルガ「まあ、過ぎたことは今さらいい。 それよりも、姫君。明日の儀のため、準備に参りましょう」
○○「……痛っ――」
アヴィ「待て! ○○に触るな」
強引に私の腕を取ろうとしたオルガさんの腕を、アヴィが払う。
アヴィの力強い手のひらが、熱く感じる。
(この手を、離して欲しくない……)
だけどその想いは、無残にも神官の声により遮られた。
アフロスの神官「アルストリアの王子よ。女神の信託に異を唱えてはなりません。 軽はずみな行動を取っては、災いがもたらされるかもしれませんよ」
アヴィ「……」
オルガ「……と、いうことだ、アヴィ王子。 ではこれにて……姫君、参りますよ」
○○「……!」
否応なく、オルガさんに手を引かれ、祭壇の出入り口へと向かう。
(アヴィ……)
アヴィ「……」
縋るような瞳をアヴィに送るも、
その場はどうすることもできないのだった…―。
その後、明日に迫った儀式のために、
私はオルガさんの一族の部屋で、ほぼ軟禁される状態となってしまった。
オルガ「姫、何をそんなに恥ずかしがるのです?」
○○「やめて、ください……っ!」
離れてソファーに座った私に、オルガさんが無理矢理手を伸ばす。
その手をどうにかして遮ろうとするけれど、オルガさんの手が私の顎を掴み上げた。
オルガ「ふん、まあいい……明日に儀式を済ませれば、晴れて婚約となる。 領土会議のときはアヴィに煮え湯を飲まされたが……。 それもトロイメアと親交を結び、力を手に入れれば些細なことだ!」
オルガさんの顔が、私に近づいて…―。
オルガ「随分あいつと仲がいいようだが……」
○○「……嫌っ!」
唇が触れそうになったところで、私は力いっぱい彼を跳ねのけた。
オルガ「元気なことだ……まあ、今はいい。姫君はせめてこの場所で大人しくなさっててくださいよ」
○○「……」
高らかに笑い声を上げ、オルガさんが部屋を去っていく。
(アヴィ……私は、本当にこのまま?)
(でも、信託を無視すれば、災いが……)
不安を抱えたまま夜は過ぎてゆく……
ベッドの上で膝を抱えていると、窓の外から声が聞こえた。
その声に引き寄せられるように、外を見れば、窓の遥か下…―。
○○「アヴィ……!」
庭ではアヴィがアルストリアから護衛として連れてきた兵士と何かを話していた。
アヴィ「……」
私に気づいたアヴィは、自分の唇に人差し指をあて、しーっと私にジェスチャーを送る。
私はその姿に……
(アヴィがいてくれる……大丈夫)
私は、ゆっくりと頷いてみせた。
すると彼は凛とした視線で私に応えてくれた。
そして数秒、困ったように頭を掻いたあと、
真っ直ぐに私を見つめ、鞘にしまった剣を引き抜いた。
○○「……!」
アヴィ「……」
彼が取ったのは、騎士が忠誠を誓った相手に捧げる臣下の礼だった。
その唇が、声もなく言葉を紡ぐ。
アヴィ『――約束する、俺を信じろ、○○』
(アヴィ……!)
ずっと苦しいばかりだった胸に、暖かなものが広がっていく。
(もう大丈夫、私は……アヴィを信じる)
胸にそう強く誓い、私は夜明けを一人部屋で待ち続けた…―。