ペルラ「ぼく達が楽しんで、嬉しい……」
噛みしめるようなペルラさんのつぶやきが、耳に届く。
ペルラ「ぼく……このままでもいいのかな」
ふと、ペルラさんの視線が私に向けられる。
○○「ペルラさん……? 突然、どうしたんですか?」
いつになく真剣なペルラさんの様子に、私は目を見張った。
ペルラ「騒ぎにこそなっちゃったけど……ロトリアの人達、皆ぼく達のこと歓迎してくれていたよね」
ロトリアの街の人達が皆、私達に嬉しそうに手を振ってくれたことを思い返す。
ペルラ「驚いたんだ。まさか、ぼくなんかにあそこまで喜んでくれるなんて思わなかったから……。 ……すごく、嬉しいって思った」
○○「ペルラさん……」
ペルラ「国では……マルガリタでは、あんまりそういうことがなかったから」
ペルラの従者「ペルラ様……」
ペルラ「幸せの涙を流さなきゃいけないのに、ぼくにはそれができない…―」
ペルラさんは悔しそうに、長いまつ毛を伏せる。
ペルラの従者「ペルラ様、それは…―」
ペルラさんの一族は、幸せな涙を宝石に変えることで繁栄させてきた。
けれどペルラさんはその涙を流すことができず、負い目を感じていて……
ペルラ「……面倒だった。全部。 だから何もしようとしなかった。けど…―。 皆がぼくを歓迎してくれて嬉しかった。だからこの国のために何かしたいって、そう思って…―」
ペルラさんの瞳が惑うように揺れる。
(ペルラさん……)
彼の気持ちを思い、私の胸が締めつけられる。
○○「……ペルラさん」
ペルラ「○○?」
にっこりと笑いかけると、彼は目を丸くした。
しっかりとペルラさんの顔を見て、私は口を開く。
○○「仮装や街の飾りつけ、それにお店の準備は全部……。 今日までケナルのウィル王子や、ロトリアの皆さんが頑張ってきたものなんですよ」
ペルラ「……」
しばらくの沈黙の後、ペルラさんはつぶやくように声を出す。
ペルラ「皆が一生懸命考えて……いいものにしようとしてるのか」
彼の視線が、テーブルの上に置かれたお菓子に向けられる。
ペルラ「飾りも、仮装も、このお菓子ひとつひとつにも……。 ひとりひとりの思いが詰まってるってこと?」
○○「……はい。そう思います」
ペルラ「……」
私に向き直った彼は、綺麗な笑みを浮かべ……
ペルラ「……なら、ぼくも協力したい」
そう言って、自分の気持ちを確かめるように衣装に手を触れる。
ペルラ「この衣装、従者達が用意してくれたものだけど……。 ぼくもちゃんと自分で考えた衣装を着て、パレードに参加したい。 この収穫祭にふさわしいって心から思える……そんな衣装を。 そう思うのは、変?」
私はにっこりと微笑んで……
○○「いえ、素敵なことだと思います」
ペルラ「……ありがとう」
ペルラさんは、ますます明るい笑みを広げる。
胸を温かくする私の後ろから、従者さんが鼻をすする音が聞こえてきたのだった…―。