おじいさん「こんなかわいらしいお嬢さんを下僕とは、感心しませんな」
突然声をかけられて、私達は一瞬目を丸くする。
従者「おい、失礼だぞ。このお方は、雪の国・スノウフィリアの第三王子、シュニー様だ」
おじいさん「おや、王族の方でしたか。それは失礼いたしました」
従者さんに咎められても、おじいさんは穏やかな表情のまま私達に微笑みかけている。
シュニー「お前、誰?」
シュニー君がそう尋ねると、おじいさんはゆっくりとした口調で、最近までこの国の王家を守る近衛兵の隊長をしていたことを教えてくれた。
おじいさん「花誓式にお越しとは……。 ありがとうございます。花誓式は、私にとって何より大切な式典でしてね」
シュニー「そうなの?」
素直に尋ねるシュニー君に、おじいさんが目を細める。
おじいさん「はい。花の精の王子が毎年交代で誓いの言葉をおっしゃるのですが、それぞれがその一族らしく……。 近衛兵を引退した今も、私にとっては年に一度の楽しみでして。 あれを聞くと、心新たにまた一年生きていこうと思えるのです」
〇〇「その一族らしく……素敵ですね」
シュニー「……」
おじいさん「ええ。長年近衛兵を率いておりましたが、騎士の精神というのは人それぞれでしてね」
(騎士の精神……)
その言葉が胸にふと引っかかった時、それまで黙っていたシュニー君が得意げに口を開いた。
シュニー「騎士の精神? それなら僕も知ってるよ。本で読んだからね」
おじいさん「おや、そうでしたか。 しかし先ほどのご様子を見る限り、まだ騎士の精神を語るには及ばぬやもしれませんなぁ」
シュニー「……何それ、どういう意味?」
歯に衣着せぬおじいさんの物言いに、シュニー君がむっとした様子で目を眇める。
(シュニー君……怒ってる?)
〇〇「しゅ、シュニー君……!」
シュニー「……何?」
〇〇「あの、落ち着いてください」
シュニー「お前こそ、落ち着いたら?」
そんな私達の様子を見て、おじいさんはさらに柔らかく目尻を下げた。
おじいさん「せっかく花誓式にいらしたわけですし、この機会に騎士の精神を改めて学んでみてはいかがでしょう」
シュニー「……騎士の精神なんて、本で読めば充分だよ。 第一、王子である僕に必要なのは帝王学だ」
そう言い切ると、シュニー君は同意を求めるように私を見つめた。
シュニー「お前もそう思うよね」
(なんて答えたらいいんだろう。シュニー君の言いたいこともわかるけど……)
(おじいさんが言いたいことは伝わってないのかもしれない)
シュニー「……どうして黙ってるの?」
〇〇「あの、なんて言えばいいのか……」
シュニー君に上手く伝わるように、私は考えながら口を開いた。
〇〇「帝王学も大事だし、シュニー君らしいと思います。 でも、一緒に国を守る騎士のことももっと知れたら……。 誰よりも強くて、皆に慕われる立派な王子になれるんじゃないかなって……」
シュニー「誰よりも……?」
〇〇「はい。シュニー君がそんな王子になれたら、とても格好いいと思います」
そういって微笑むと、シュニー君はその真意をうかがうように私の瞳をまっすぐ見つめた…-。