しばらくしてシュニー君は、かわいらしいブーケを手に、こちらへ戻ってきた。
シュニー「ほら、あげる」
凛と咲く清らかな花が美しくて、自然と笑顔になってしまう。
〇〇「ありがとうございます。この花、綺麗だなと思ってたんです」
シュニー「へえ、それに目をつけるなんて悪くないね。褒めてあげるよ」
なぜか誇らしげに眉を上げる彼に、私は小さく首を傾げる。
その時、ふと彼の胸元にある花飾りが目に入った。
〇〇「あれ、もしかしてその飾りは……」
(このブーケの花と同じ……?)
シュニー「やっと気づいたの? これは雪の降る地域しか咲かない花。スノウフィリアから出荷されてるんだ」
聞けば、スノウフィリアとヴィラスティンの間には交易があるらしい。
シュニー「だからフロ兄も、何度か花誓式に出てる。まぁ、今年は僕が任されたんだけどね」
いつも以上に輝く瞳は、兄であるフロストさんから公務を任された喜びが表れている。
〇〇「ふふっ……」
シュニー「……ちょっと、何笑ってるのさ」
頬を膨らませるシュニー君に、私は……
〇〇「わ、笑ってません」
シュニー「下僕のくせに、主人に嘘を吐いていいと思ってるの?」
〇〇「嘘じゃない、です」
シュニー「……本当に?」
こちらを見上げる大きな瞳に、私はわずかな苦笑を浮かべつつ口を開く。
〇〇「あの、とにかく……シュニー君のこと、しっかり応援しますね」
シュニー「別に、お前に応援されるまでもないよ」
そんな話をしながら街を歩いていると…-。
シュニー「あ……」
シュニー君がある看板の前で足を止めた。
クリームたっぷりで甘そうなパンケーキの絵をじっと見つめる彼に、私は思わず笑みをこぼした。
〇〇「おいしそうですね。シュニー君、食べたいんですか?」
シュニー「僕は別に……お前がどうしても食べたいって言うなら、食べてもいいけど」
軽く唇を尖らせて、シュニー君が私の様子をうかがう。
(これってきっと……食べたいってことだよね)
また小さく微笑んでしまいそうになるのをこらえつつ、私は頷いた。
〇〇「はい、食べたいです」
満足そうに口の端を上げたシュニー君と共に、そのカフェに入る。
運ばれてきたパンケーキを早速口にすると…-。
シュニー「ふうん、悪くないね」
そう言いつつも口の端にクリームをつけて、彼はすっかりパンケーキに夢中に見える。
〇〇「イチゴの方も食べますか?」
私はそっとお皿を彼の方へと滑らせる。
すると、シュニー君は不機嫌そうに眉を寄せた。
シュニー「下僕のくせに、主人に自分で食べさせるつもりなの?」
〇〇「え?」
シュニー「成長したと思ったけど、まだまだみたいだね。 ほら、こうするんだよ」
〇〇「……!」
シュニー君は、パンケーキをフォークに刺すと、私の前へそっと差し出す。
私は鼓動が大きく跳ねるのを感じながらも、促されるまま口を開いた。
(ちょっと、照れる……)
シュニー君に食べさせてもらったパンケーキは甘くて、自然と頬が熱くなっていく。
シュニー「これでわかったでしょ。じゃあ、次は僕の番」
フォークを置いたシュニー君に、私は……
〇〇「じゃあ……」
シュニー「ちゃんとそこのイチゴも乗せてよね」
〇〇「は、はい……!」
切ったパンケーキを整った唇へと差し出すと…-。
シュニー「……うん、おいしい」
彼はそう言って、幸せそうに微笑んだのだった…-。
…
……
パンケーキを食べてひと息吐くと、シュニー君は窓の外に視線を投げる。
シュニー「この後はどこに行こうかな。 ねえ、そういえば下僕はヴィラスティンに来たの、初めてじゃないんだよね?」
〇〇「はい。呼んでいただいて何度か」
シュニー「次はお前の好きな場所に僕を案内してよ。 主人を退屈させないのも、下僕の務めだからね」
当然のように言われて、私はどうしたものかと考えを巡らせる。
その時…-。
??「こんなかわいらしいお嬢さんを下僕とは、感心しませんな」
(え……)
優しい声色に振り向くと、隣の席のおじいさんが目を細めて私達を見つめていた…-。