第3話 頼もしい人

セント・ガブリエル号では、新年に向けて大掃除が行われていた。

船員さん達が、慌ただしく動き回っている。

ダグラス「掃除が終わったら、宴の始まりだ」

〇〇「宴ですか。 それは楽しそうですね」

ダグラス「なんてったって、一年に一度の特別な日だからね。 こういう日を大事な仲間と賑やかに過ごす。最高だろ?」

嬉しそうに、ダグラスさんは柔らかな笑みを浮かべた。

ダグラスさんが船員さん達に向き直る。

ダグラス「準備はどうだ? 足りていないものはないか?」

ダグラスさんの言葉に、一人の船員さんが手を上げた。

船員1「すみなせん! 新年を迎える宴用の買い出しがまだなんです……今行ってきます!」

船員2「ちょっと待て、そうするとこっちの人手が……」

船員1「でもこのままだと時間が…-」

慌ただしそうな船員さん達の様子に、思わず私は口を開く。

〇〇「あの、買い出しだったら私が行ってきましょうか?」

船員1「いえいえ、姫様にそんなことさせられませんよ!」

〇〇「でも……」

言葉を続けようとした時、ダグラスさんが私の背に手を添えた。

ダグラス「俺も行こう」

船員2「……えっ! いえ、俺達が行ってきます!」

ダグラス「大丈夫だ、俺が行く。それに……」

ダグラスさんの体を、小さな動物が駆け上がる…-。

ダグラス「こいつも、出かけたがってるみたいだからな」

彼の肩にぴょんと飛び乗ったのは、猿のボニータだった。

ボニータは大きな瞳を瞬かせ、ダグラスさんの頬に顔を擦り寄せる。

ダグラスさんは小さく笑って、ボニータの頭を撫でた。

ダグラス「それに、うちの船員たちはなかなか優秀だからね。 俺が戻ってくる頃には、すっかり片づいているはずだ」

ダグラスさんの言葉に、船員さん達が笑顔を見せる。

船員1「ダグラス様には敵わないなぁ。おいお前ら、しっかりやるぞ!」

船員達「おー!」

(ダグラスさん……)

彼の何気ない言葉の素振りが、皆の士気を高めている。

ダグラス「頼もしいな」

ダグラスさんはまぶしいものを見るような目で、彼らを眺めていた。

(本当に頼もしいのは……)

ダグラスさんの横顔を見つめていると、ふと、彼の眼差しが私に留まる。

ダグラス「ん? どうかした?」

〇〇「あ、いえ……」

慌てて目を逸らすと、ダグラスさんがくすくすと笑った。

ダグラス「なんだ。熱い視線を感じた気がしたけど、気のせいだったかな」

言葉に詰まる私に、ダグラスさんが微笑む。

ダグラス「優雅なデートってわけにはいかないけど……付き合ってくれるかい?」

〇〇「……もちろんです」

デートという言葉にくすぐったさを感じながらも、私は深く頷いた…-。

……

ダグラスさんが引く台車が、カタカタと音を立てる。

その足元を、ボニータが嬉しそうに駆け回っている。

〇〇「大きな台車ですね」

ダグラス「航海が何十日も続いたりするからね。船に積んでいる食料は、なかなかの量なんだ」

〇〇「毎回買い出しに行くのは大変ですね」

ダグラス「普段は商人に港まで来てもらってるよ。こうして買い出しに行くのは、急ぎの時だけかな」

〇〇「でも、船長さん自ら買い出しに行くなんて……。 驚きました」

ダグラス「そうかい? 俺は結構好きなんだが……。 まあ、さっきみたいな調子で、船員達もなかなか行かせてはくれないけどね」

ダグラスさんがふっと笑う。

ダグラス「でも、街の様子も見ておきたいし、君と二人きりになりたいからね」

〇〇「……っ」

さらに言葉を紡ぐダグラスさんを、思わず見つめていた。

返す言葉を探していると…-。

??「ダグラス様!」

街の人達がダグラスさんに気づき、こちらに駆けてきた。

街の人1「ダグラス様、おかえりなさい。これ、よかったら持って行ってください」

そう言って台車にのせられた木箱の中で、大きな魚が跳ねる。

街の人2「今年はお世話になりました。これもどうぞ!」

今度は色とりどりの果実が台車に積まれて……

ダグラス「こちらこそ世話になった。食料までこんなに……感謝するよ」

街の人3「うちの店にも新鮮な魚がたんまり上がってますんで、よかったら寄って行ってくださいよ」

ダグラス「ははっ、ありがたいけど、そんなには一度に持ち帰れないよ」

ダグラスさんと街の人達の笑顔が弾ける。

(ダグラスさん、街の人に本当に慕われているんだな)

彼がどんなふうにこの国を治め、人々と関わっているのがよくわかる。

その幸せな光景を、私はいつまでも見ていたいと思った…-。

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