第3話 合言葉は花言葉

やがて、招待状に描かれていた時間になって……

私は地図を頼りに、路地裏にやって来た。

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グウィード『ドアを3回ノックしたら合言葉を。ヒントは一緒に送った花の言葉だよ』

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手紙に書かれていた通りに、恐る恐る3回ノックする。

〇〇「えっと、ミモザの花言葉ってなんだろう……」

グウィード「君のことを表した言葉だよ」

閉ざされた扉の向こうから、声が聞こえた。

〇〇「私のこと……?」

グウィード「気高く、優美……さあ、合言葉を」

〇〇「えっと……」

グウィード「答えは『エレガント』 今夜はおまけだよ♠」

悪戯っぽく微笑んだグウィードさんが扉から現れて、私を中に招き入れた。

そこには……

(外から見るのとでは……まるで別世界みたい……)

(わ……)

キャンドルの明かりに照らされて、アンティーク調の室内が浮かびあがる。

その幻想的な空間に、つい見惚れてしまう。

グウィード「すまなかったね、恩人の君に素顔で挨拶もせずに」

グウィードさんが柔らかな声で言う。

彼が仮面を外そうとして、胸が音を立てた。

(グウィードさんの素顔……)

―――――

グウィード『さてどうしようか。キミのお願いとあらば叶えてあげたいけど……今は出来ない♠ なぜなら、僕の素顔を見た人は恐ろしい呪いに!』

―――――

その言葉を思い出して、思わず顔を逸らしてしまう。

グウィード「ん? ああ、呪いは冗談だからそんなに怯えないで◆」

〇〇「は、はい」

グウィード「子猫ちゃんは本当に素直だ。 怖がらせてごめんね。ちょっと素性を隠す必要があってね……」

仮面から手を外し、グウィードさんが表情を曇らせる。

(素性を隠すって……?)

〇〇「大丈夫ですか?」

グウィード「心配してくれるのかい? ありがとう、子猫ちゃん♡」

グウィードさんの長い指が私の頬を包み込む。

グウィード「大丈夫だよ。面倒事に関わりたくないだけだから。 ところで子猫ちゃん。招待状になんて書いてあったか覚えてる?」

〇〇「あ……秘密の舞踏会って……」

グウィード「そう。ようこそ、二人だけの秘密の舞踏会へ◆」

恭しくお辞儀をすると、彼は私に手を差し伸べた。

グウィード「僕のダンスにお付き合い願えますか?」

〇〇「踊れません……」

グウィード「大丈夫、君をリードするのも僕の役目だよ♪ ここには僕と子猫ちゃんしかいないんだ。誰も笑う者はいない♧」

レコードに針を落とすと、彼は私の腰を引き寄せた。

バイオリンの艶やかな音色が、室内に響く。

グウィード「さあ踊ろう。マドモアゼル」

〇〇「はい」

差し出されたグウィードさんの手を取り、彼に身を委ねる。

(これも夢の中みたい……)

私の背中に添えられた、彼の大きな手の熱が伝わってくる。

胸がトクントクンと、小さな音を立てていた。

……

明け方が近づき、私はグウィードさんに抱かれて宿まで戻ってきた。

ベランダにそっと私を降ろすと、彼は私の頬に指を滑らす。

グウィード「おやすみ……良い夢を、僕の可愛い子猫ちゃん。 また明日の夜に会おう」

仮面の奥の瞳が、優しく細められる。

〇〇「はい、グウィードさん……」

グウィード「……」

彼の顔が私の顔に近づけられて……

(え……?)

魔法にかけられたように、そっと瞳を閉じた。

けれど、不意に彼の吐息の温かさが遠ざかる。

(グウィードさん……?)

そっと目を開けると、彼の姿はもうそこにはなく、きらめく星々が、ただ静かに頭上で輝いていた…-。

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