グウィードさんの腕に抱かれ、ベランダから夜空へ飛び込む。
(落ちる……!)
衝撃を恐れて、ぎゅっと目を瞑った。
けれど……
(あれ……?)
歯を食いしばり衝撃を待ち構えていたのに、それはいっこうにやって来ない。
(どう、なったの……?)
グウィード「目を開けてごらん、子猫ちゃん♠」
〇〇「え……?」
恐る恐る目を開くとそこには…-。
光り輝く星空が、視界いっぱいに広がっていた。
〇〇「飛んでる……?」
グウィード「いい表現だね」
建物の壁に着地すると、グウィードさんは次の止まり木を探して飛び上がる。
〇〇「まるで星空を飛んでいるみたい……」
ドキドキと胸が高揚していく。
グウィード「気に入ってくれたかな?」
〇〇「はい……夢みたいです!」
グウィード「夢かもしれないね……」
〇〇「え……?」
グウィードさんを仰ぎ見ると、仮面の奥の瞳が細められた。
グウィード「今の僕も、この景色も、もしかしたら子猫ちゃんが見ている夢かもしれないよ◆」
(こんなに素敵なら……それでもいいかも……)
…
……
街並みから一つだけ飛び抜けた高い塔に、グウィードさんがふわりと降り立った。
グウィード「到着だ」
塔から見おろすと、街の明りが連なってきらきらと揺らめき、まるで天の川のようだった。
グウィード「さあ、僕が捕まえているからここに座ってごらん」
グウィードさんにつかまり、塔の縁に腰を掛ける。
その隣に彼も並んで座った。
〇〇「素敵……」
星を見つめる瞳が、仮面の奥で優しく細められる。
(仮面の下は、どんな顔なんだろう……)
グウィード「そんなに熱く見つめられると、穴が開いてしまいそうだよ」
〇〇「す、すみません……!」
グウィード「そんなに気になるかい? この仮面が」
〇〇「はい」
グウィード「素直だね、子猫ちゃん♡ さてどうしようか。キミのお願いとあらば叶えてあげたいけど……今は出来ない♠ なぜなら、僕の素顔を見た人は恐ろしい呪いに!」
〇〇「っ……!」
思わず私は息を呑んだ。
すると、彼はコツンと私の額に額を合わせた。
グウィード「呪いにかかってもいいほどに、子猫ちゃんが僕に惚れてしまったのなら仕方ないけどね♪」
仮面の奥の瞳が、面白がるように細められる。
私の顔がどんどん熱を持っていく。
グウィード「冗談だよ。 少々、星に酔ってしまったのかもしれない」
彼が星空へと視線を戻した。
見つめる先で、星々が静かに輝いていた。
…
……
〇〇「う…ん……」
鳥のさえずりが耳をくすぐり、私はそっと瞳を開けた。
(あれ……?)
ベッドの上から、ベランダから朝日が差し込んでいるのが見えた。
(昨日のことは夢だったのかな……)
ベランダに出て、街の喧騒を眺める。
その時ふと、ベランダの手すりの縁に一輪の黄色い花と封筒を見つけた。
〇〇「この花は……ミモザ……?」
封筒から、中に入っている洋紙を開いた。
流麗な文字で、時間や場所などが書かれている。
〇〇「これは……招待状?」
(グウィードさんが置いていったの?)
(夢じゃ、なかったんだ……!)
嬉しさに招待状と花を胸に抱いた。
可憐なミモザの花からは、優しい香りが広がっていた…-。