第2話 儀式の準備

ヒノトさんと秘書官さんに寝起きを見られてしまった後…-。

私は念入りに身だしなみを整えると、廊下に出た。

(あ、ヒノトさん……)

従者の方達に指示を出す背中はとても忙しそうで、声をかけるのもはばかられる。

(何かお手伝いできたらいいけど、かえって邪魔しちゃうかもしれないし……)

そっとその場を離れようとしたけれど…-。

ヒノト「〇〇?」

名前を呼ばれてしまい、振り返ればヒノトさんが柔らかな笑みを浮かべていた。

〇〇「すみません、準備中にお邪魔しちゃって……」

ヒノト「そんなことないよ、君の顔が見れて嬉しい」

彼の言葉に頬が緩みそうになる。

〇〇「私にも何かお手伝いできることがあればと思うんですけど……」

ヒノト「手伝うって……『新羊儀(しんようぎ)』の準備を?」

昨日ヒノトさんから聞いたところによると、それは未(ひつじ)の一族が新年最初の朝に執り行う儀式で、彼は王子として、早朝からその準備に追われているという…-。

ヒノト「ありがとう。でも君は儀式での俺を見ていてくれたら、それで充分だよ」

〇〇「でも……」

ヒノト「あ、そうだ……それなら一つ、お願いしてもいいかな?」

〇〇「お願い?」

首を傾げる私に、ヒノトさんが一歩距離を詰める。

ヒノト「この儀式が終わったら、君の時間を俺にちょうだい? 新年最初の日を好きな子と過ごせたら、いい一年になりそうでしょ? それに、儀式の後に君と過ごせるって考えたら……年明け最初の公務も、もっと頑張れそうだから」

〇〇「ヒノトさん……」

(そんなふうに思ってくれるなんて……)

言いようもない嬉しさが込み上げて、気づけば私はしっかりと頷いていた。

〇〇「私でよければ、是非」

ヒノト「よし、決まりだね。楽しみだな」

近い距離で見つめ合い、密かに胸が弾む。

けれどその時、従者の方が現れて……

従者「ヒノト様、新羊儀の準備があらかた整いました。一度全体を通してご確認いただけますでしょうか」

ヒノト「わかった。すぐに行く」

一礼して去っていく従者の方の背中を見送っていると……

ヒノト「〇〇、ごめんね。俺もう行かなくちゃ。 新羊儀、楽しみにしてて」

言うが早いか、彼の柔らかな唇が額に触れた。

〇〇「……!」

思わず息を呑んだ私を嬉しそうに見つめ、ヒノトさんが名残惜しそうに踵を返す。

(……心臓、もつかな)

朝から忙しない鼓動を感じながら、私はこの後始まる儀式に思いを馳せるのだった…-。

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