ゲイリー「やはり不思議だ。おまえとこうしていると、自分では抑えられない憎しみの心が緩んでいく……。 なぜだろうな……」
切なくも強い口調でゲイリーさんは言って、きつく私の体を抱きしめた。
逞しく鍛え上げられた体から、彼の温もりが伝わってきた。
ゲイリー「早く呪いを解かなければ、国の民が苦しみ続けることになる。 俺は、一刻も早くこの国を救いたい……」
(ゲイリーさんの、心臓の音が聞こえる)
この優しい心の持ち主に、私の心も締めつけられた。
○○「ゲイリーさん……私にも、呪いを解くお手伝いをさせてください」
ゲイリー「……」
(ゲイリーさんの、力になりたい……)
ゲイリー「おまえといると、確かに憎しみの心は和らいでいく……しかし。 おまえまで、傷つけるかもしれない……」
(なんて悲しい声……)
○○「私は、大丈夫です。だから、自分が穢れているなんて言わないでください」
悲しくて、ぎゅっと私も彼を抱きしめ返した。
ゲイリー「おまえを、傷つけたくはないが……。 やはり、おまえとこうしていると……とても安心する。心が、凪いでいくようだ」
(よかった……)
そうしているうちに……
○○「ゲイリー……さん?」
ゆっくりとゲイリーさんの力が抜けていくのがわかった。
(もしかして、眠ってる?)
いつの間にか、ゲイリーさんは私の腕に抱かれるようにして再び静かな眠りに就いていた。
彼をそっとベッドに横たえて、私もその隣に寄り添うように座る。
(穏やかな寝顔……)
その晩、いつの間にか私はゲイリーさんの傍で眠っていた。
…
……
それから……
ゲイリーさんと一緒に呪いを解く手がかりを探したけれど、いっこうに手がかりは掴めないままだった。
日を追うごとにゲイリーさんの表情の陰りが濃くなっていく。
けれど、私を見る彼の眼差しは、いつも優しく感じられた……
そしてある朝…―。
目を覚ますとゲイリーさんの姿が見当たらない。
(どこに行ったのかな?)
ゲイリーさんを捜して、外へ出てみると……
ゲイリー「ははっ。よしよし、そんなにじゃれつくな」
(ゲイリーさんの声? なんだかとっても楽しそう)
ゲイリーさんと一緒にいたものは……
○○「く、熊!?」
ゲイリー「○○。起きたか。おまえも一緒に遊ぶか?」
ゲイリーさんは、とても大きな熊とじゃれ合って遊んでいるところだった。
(びっくりした……熊に襲われてるのかと一瞬、思ってしまった)
恐る恐る近づくと、ぶるりと熊が身震いをして、私は後ずさりした。
ゲイリー「怖くないぞ。こいつは優しい。ほら、撫でてみろ」
○○「は、はい……」
言われるままに、とても大きな熊に手を伸ばして、そっと触れてみる。
(あったかい)
ゲイリー「こいつも気持ちよさそうだ」
ゲイリーさんの無邪気な笑顔が、朝日に照らされて輝いている。
(こんなふうに、笑うんだ)
初めて見る屈託のない笑顔に、心臓の音がうるさくなる。
(ずっと難しい顔や、悲しい顔ばかりしてたから)
○○「ゲイリーさんは、森の動物とも仲良しなんですか?」
ゲイリー「仲良し…というのか? 気づけばいつも自然に、近くにこいつらがいるんだ」
(す、すごい……)
ゲイリー「まあ、動物は付き合いやすい。呪いが発動することもないからな」
○○「ゲイリーさん……」
その言葉に、胸が痛む。
(本当は国のことや国民のことを、誰よりも考えてる優しい人なのに)
ゲイリー「○○……?」
不意に、ゲイリーさんが、熊を撫でる私の手にそっと手のひらを重ねた…―。