第4話 穢れ

盗賊をなぎ倒すゲイリーさんを止めたくて、思わず抱きしめた時……

再びゲイリーさんのまとう空気が変わったような気がして、おずおずと顔を上げた。

ゲイリー「……俺は」

ゲイリーさんが苦悶の表情をにじませて、体をよろめかせる。

○○「ゲイリーさん……っ」

必死で抱き留めると、ゲイリーさんの瞳が私を映した。

(ゲイリーさんの目……さっきみたいに怖い目じゃない)

ゲイリー「……すまない。 止めてくれて助かった。そうでなければ、また、憎しみに駆られて……」

ゲイリーさんは、そこできつく唇を噛みしめ、辺りの様子を見回すと深くうなだれた。

部下1「ゲイリー様、盗賊はもう逃げていきました。戻りますか?」

ゲイリー「ああ……」

部下の方が駆け寄ってきて、ゲイリーさんに耳打ちをする。

ゲイリーさんは、身を隠すように深く襟元へ顔を埋めると、私を抱き寄せ馬にまたがった。

ゲイリー「帰るぞ」

その瞳は、ただひたすらに前を見つめるだけで、私とは目を合わせてくれない。

人を拒絶しているような雰囲気に、私は何も言えないまま、彼の腕の中で黙り込んでいた。


………

その夜…―。

ゲイリーさんは小屋へ戻った後、一言も発さずに眠りに就いた。

ゲイリー「…………」

眠っている彼の表情がとても苦しそうで、私の胸を締めつけていた……

(……まだ、起きない)

簡素なベッドで眠る彼のことを、じっと見つめていると……

ゲイリー「……」

ゆっくりと、その瞳が開かれた。

○○「ゲイリーさん!」

ゲイリー「○○……」

その瞳には優しい光が宿っている。

○○「よかった。気分は悪くありませんか?」

ゲイリー「俺は……そうか、街で。 ……怖かっただろう?」

身を起こし、彼が私に悲しそうに問いかける。

○○「……はい。でも、怖いというよりも、ゲイリーさんの様子が心配でした」

そう言うと、ゲイリーさんの表情がわずかに緩んだ。

ゲイリー「俺の、様子か……。 ……おまえがそんな顔をするな」

○○「え……?」

ゲイリー「あんなものを見せられて、それなのに俺の心配をしてくれるのか。 まるで自分のことのように、悲しい顔をして……」

○○「……ゲイリーさん」

ゲイリー「俺のことを、気にしてくれているのか」

○○「……はい」

ゲイリーさんは深く息を吐いて、静かに語り出した。

ゲイリー「俺は……穢れているんだ……」

○○「え?」

(穢れているって……?)

そして、ゲイリーさんから信じられないような話が語られた。

継母に呪いをかけられて、憎しみの感情を持つとその狂気に支配され、殺意で自我がなくなるということ。

継母が国王様にも傀儡の呪いをかけて操っていて、国に悪政を強いていること。

ゲイリー「継母は父の妾で……欲深い女だった。人が変わってしまった父を嘆き、俺の母は自ら命を絶った」

ゲイリーさんが唇をきつく噛みしめる。

○○「その継母は、今は……?」

ゲイリー「姿をくらまし、どこかで父を操っているはずだ。 今も俺の命を狙っている。 だから俺は、誰も傷つけないために、一人で旅をしながら呪いを解く方法を探している。 その間、俺の影武者となってくれている人間もいる」

○○「もしかしてゲイリーさんが…―」

ゲイリー「ああ。俺が、この国の……クレアブールの第一王子だ」

凛々しく輝いたゲイリーさんの瞳には、すぐに陰りが落とされる。

ゲイリー「しかし今日……呪いの力がまた暴走してしまった。どうしても、あの暴挙が許せなくて……」

○○「ゲイリーさん……。 ゲイリーさんは、優しい人だから……」

ゲイリー「○○……」

ゲイリーさんは、悲しそうな顔を少しだけ動かして、小さく微笑んでくれた。

ゲイリー「やはり不思議だ。おまえとこうしていると、自分では抑えられない憎しみの心が緩んでいく……。 なぜだろうな……」

○○「え……?」

不意に強引に抱き寄せられ、すっぽりと彼の腕の中に包まてしまう。

時が、止まったように感じた…―。

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