盗賊をなぎ倒すゲイリーさんを止めたくて、思わず抱きしめた時……
再びゲイリーさんのまとう空気が変わったような気がして、おずおずと顔を上げた。
ゲイリー「……俺は」
ゲイリーさんが苦悶の表情をにじませて、体をよろめかせる。
○○「ゲイリーさん……っ」
必死で抱き留めると、ゲイリーさんの瞳が私を映した。
(ゲイリーさんの目……さっきみたいに怖い目じゃない)
ゲイリー「……すまない。 止めてくれて助かった。そうでなければ、また、憎しみに駆られて……」
ゲイリーさんは、そこできつく唇を噛みしめ、辺りの様子を見回すと深くうなだれた。
部下1「ゲイリー様、盗賊はもう逃げていきました。戻りますか?」
ゲイリー「ああ……」
部下の方が駆け寄ってきて、ゲイリーさんに耳打ちをする。
ゲイリーさんは、身を隠すように深く襟元へ顔を埋めると、私を抱き寄せ馬にまたがった。
ゲイリー「帰るぞ」
その瞳は、ただひたすらに前を見つめるだけで、私とは目を合わせてくれない。
人を拒絶しているような雰囲気に、私は何も言えないまま、彼の腕の中で黙り込んでいた。
…
………
その夜…―。
ゲイリーさんは小屋へ戻った後、一言も発さずに眠りに就いた。
ゲイリー「…………」
眠っている彼の表情がとても苦しそうで、私の胸を締めつけていた……
(……まだ、起きない)
簡素なベッドで眠る彼のことを、じっと見つめていると……
ゲイリー「……」
ゆっくりと、その瞳が開かれた。
○○「ゲイリーさん!」
ゲイリー「○○……」
その瞳には優しい光が宿っている。
○○「よかった。気分は悪くありませんか?」
ゲイリー「俺は……そうか、街で。 ……怖かっただろう?」
身を起こし、彼が私に悲しそうに問いかける。
○○「……はい。でも、怖いというよりも、ゲイリーさんの様子が心配でした」
そう言うと、ゲイリーさんの表情がわずかに緩んだ。
ゲイリー「俺の、様子か……。 ……おまえがそんな顔をするな」
○○「え……?」
ゲイリー「あんなものを見せられて、それなのに俺の心配をしてくれるのか。 まるで自分のことのように、悲しい顔をして……」
○○「……ゲイリーさん」
ゲイリー「俺のことを、気にしてくれているのか」
○○「……はい」
ゲイリーさんは深く息を吐いて、静かに語り出した。
ゲイリー「俺は……穢れているんだ……」
○○「え?」
(穢れているって……?)
そして、ゲイリーさんから信じられないような話が語られた。
継母に呪いをかけられて、憎しみの感情を持つとその狂気に支配され、殺意で自我がなくなるということ。
継母が国王様にも傀儡の呪いをかけて操っていて、国に悪政を強いていること。
ゲイリー「継母は父の妾で……欲深い女だった。人が変わってしまった父を嘆き、俺の母は自ら命を絶った」
ゲイリーさんが唇をきつく噛みしめる。
○○「その継母は、今は……?」
ゲイリー「姿をくらまし、どこかで父を操っているはずだ。 今も俺の命を狙っている。 だから俺は、誰も傷つけないために、一人で旅をしながら呪いを解く方法を探している。 その間、俺の影武者となってくれている人間もいる」
○○「もしかしてゲイリーさんが…―」
ゲイリー「ああ。俺が、この国の……クレアブールの第一王子だ」
凛々しく輝いたゲイリーさんの瞳には、すぐに陰りが落とされる。
ゲイリー「しかし今日……呪いの力がまた暴走してしまった。どうしても、あの暴挙が許せなくて……」
○○「ゲイリーさん……。 ゲイリーさんは、優しい人だから……」
ゲイリー「○○……」
ゲイリーさんは、悲しそうな顔を少しだけ動かして、小さく微笑んでくれた。
ゲイリー「やはり不思議だ。おまえとこうしていると、自分では抑えられない憎しみの心が緩んでいく……。 なぜだろうな……」
○○「え……?」
不意に強引に抱き寄せられ、すっぽりと彼の腕の中に包まてしまう。
時が、止まったように感じた…―。