月影の国・クレアブール、白の月…―。
深い森の中。生い茂る木々のさざめきが、不気味にも感じられる。
(早く、森を抜けてしまおう)
眠りから目覚めさせたクレアブールの王子様に呼ばれ、私は首都を目指していた。
その時…―。
男1「待てよ。お嬢さん!」
男2「ひひひっ」
○○「っ!?」
目の前に突如、数名の男達が立ちはだかった。
手には各々、長剣や短剣を構え一様に下卑た笑いを浮かべている。
(ど、どうしよう。野盗!?)
男3「へへっ、今日の女は上玉だぜ」
(怖い……)
恐怖に引きつりながら、一歩、後ずさった瞬間…―。
何かが耳のすぐ横で、激しく風を切った。
見れば、男が弓矢のようなもので服を射貫かれて木に張りつけにされている。
男1「な、なんだっ!?」
??「今すぐ立ち去れ。そして二度と、こんなことをするんじゃない」
(この声は……)
声の主を、せき立てられるような気持ちで振り返った。
そこには、大きなボウガンを手にして、堂々と立ち構える男性が一人。
精悍な顔立ちに、宝石のように澄んだ紫色の綺麗な瞳。
黒髪がさらりと、風に乗るように微かに揺れた。
○○「ゲイリーさん!!」
ゲイリー「○○……!」
私と彼の瞳が、同時に驚きに見開かれる。
それは、つい先日眠りから目覚めさせたゲイリーさんだった。
ゲイリー「……こっちへ」
くい、と首を動かし、顎で私の動きを誘導する。
男2「くそっ!」
野盗が、なおも短剣を構え襲いかかろうとする。
ゲイリー「……立ち去れというのが聞こえなかったのか」
彼のもとへ駆け寄る私の背後でまた男が一人、木に張りつけにされる。
彼の腕が伸びて、奪うように私の腕を掴み、そのまま胸に抱き寄せてくれる。
(助かった……)
ゲイリーさんの胸の中で安堵していると、男達はボウガンに射貫かれた服を破り、一目散に逃げて行った。
ゲイリー「大丈夫だったか。危ないところだった」
○○「はい、大丈夫です。本当に、ありがとうございました」
ゲイリー「気にするな。 ……これで、おまえに目覚めさせてもらった礼ができた」
ゲイリーさんの優しい瞳に安心しつつも、未だ体の震えが止まらないことに気がついた。
ゲイリー「少し座って落ち着こう。ここには切株くらいしかないが」
○○「ありがとうございます」
ゲイリーさんに肩を抱かれるようにして、私は腰を降ろした…―。