第3話 歌といちごジュースの朝

翌朝…―。

柔らかな陽射しに、そっとまぶたを押し上げる。

頬を風が撫で、ふと、フリュス君のことを思い出した。

メイド「お目覚めですか」

メイドさんが、トレイにおいしそうなジュースをのせて来てくれる。

メイド「いちごジュースですよ。 お目覚めには紅茶がいいのではと申し上げたんですけどね。 フリュス様が、いちごジュースをお出ししろとおっしゃるものですから」

メイドさんは、何だか愛おしそうに目を細めた。

メイド「ご自分の好物は人も好きだと思ってらっしゃるから」

〇〇「いちご、好きです」

メイド「それなら良かったです」

いちごジュースのグラスを受け取り、口に含む。

〇〇「美味しいです」

メイド「そういえば、今日はフリュス様と何かお約束なさってますか?」

〇〇「いえ、特には」

メイド「よかった。実は、フリュス様はまた今日も行方不明で」

〇〇「え?」

(またって……)

メイド「まったく。いつも、風にのって気ままにフワフワどこかに行ってしまわれるのですよ」

メイドさんはあきれたようなことを言いながらも、とても愛おしげに微笑んでいる。

(なんだか、いいなあ)

思わず目を細めた時…-。

フリュス「おはよ。お寝坊さん」

窓の外からひょっこりとフリュス君の顔が覗いた。

〇〇「おはよう、フリュス君」

挨拶をしてから、まだ自分がネグリジェを着ていることを思い出す。

いちごジュースのグラスをサイドデスクに置いて、あわてて掛布を引き上げた。

フリュス「いちごジュースおいしかった?」

そんなことを気にかける様子もなく、フリュス君は私に問いかける。

〇〇「うん!」

フリュス「そ。それならよかった」

フリュス君は嬉しそうに笑った。

そう言うとフリュス君は、風に乗って飛び去ってしまう。

〇〇「あ、待って……」

メイド「フリュス様! 間もなく歴史の授業のお時間ですよ!」

フリュス「あとで! 今日は、すごくいい風だから」

フリュス君は、こちらを振り返ることなく小さな手をひらひらと振ってくる。

やがて、彼は一番高い棟のてっぺんに腰かけ、鳥にパン屑のようなものをまきはじめた。

(フリュス君、歌ってる)

フリュス君の歌声に鳥のさえずりが混じる。

窓辺にもたれ、私はぼんやりとその光景を眺める。

(フリュス君が、本当の風みたい……)

私の髪を、風が優しく撫でる。

目を閉じると、甘酸っぱいいちごジュースの香りを感じた…-。

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