第2話 モルタの微笑み

公演が終わった後、私はモルタさんがいる舞台袖へと向かった。

モルタ「〇〇さん」

〇〇「モルタさん、あの…-」

観客達の様子を思い出し、どう話しかけようか迷うけれど…-。

モルタ「公演はお楽しみいただけましたか?」

モルタさんは、いつもと変わらず落ち着いた様子だった。

〇〇「はい、とても」

モルタ「それならよかったです。巡業を行った甲斐がありました」

(皆の反応を……モルタさんはどう思ってるんだろう)

言葉を選んでいると、モルタさんが先に口を開いた。

モルタ「そんな顔をしないでください。 ……今日のお客様の反応を見て、心配してくださっているのですね」

〇〇「……!」

申し訳なさそうに眉尻を下げるモルタさんに、胸がきゅっと詰まる。

〇〇「……はい」

モルタ「来てくださった方に、ひとときの夢を見せるのがサーカスですが……。 カルナバーラの方々は、日常の中にサーカスがあります。 もとより、そう簡単には満足していただけないだろうと思っていました」

〇〇「でも……モルタさん達のサーカスは素晴らしかったです」

モルタ「ありがとうございます。あなたにそう言っていただけて、嬉しく思います」

言葉とは裏腹に、彼は淡々と続ける。

(大丈夫、なのかな……)

心配をぬぐいきれず見つめていると、彼の瞳が切なげに細められた。

モルタ「……すみません。心配をかけてしまいましたね」

モルタさんは静かに笑って、私の髪にそっと触れる。

モルタ「今度は満足していただけるよう、練習に励まねばなりませんね。 ……その先に、何があっても」

(え……?)

〇〇「どういう……ことですか?」

モルタ「ああ、いえ……気になさらないでください。 すみません。公演が終わったばかりで、私も少し感傷的になっているのかもしれませんね」

仮面に隠れた瞳はうかがい知れず、あらわになっている素顔にも笑みが張りつけられているようで……

(何を……思っているんだろう)

彼の気持ちを探るように手を重ねる。

ひやりとした感覚が訪れるけれど、それ以上のことはわからなかった。

モルタ「どうかしましたか?」

〇〇「いえ……なんでもありません」

モルタ「そうですか」

重ねていた私の手を丁寧に解いて、モルタさんはにこりと目を細める。

(どうしてだろう)

(こんなに近くにいるのに……モルタさんが遠くに感じる)

胸の中にもやもやとした思いが湧き起こって、私の不安を掻き立てる。

優しい笑みの裏にある彼の苦悩と葛藤が、この時の私にはまだ見えていなかった…-。

<<第1話||第3話>>