第4話 彼の知らない現実

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女店主『何言ってんだい。アリスなんてとうの昔に消えちまったはずだよ。 アンタ、余所者かい? アリスについて知りたきゃ、城に住む女王様に話でも聞いてごらんよ』

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(一体、どうなっているの?)

城に戻ると、ドーマウス君は顔を上げ、尻尾を揺らした。

ドーマウス「あれぇ? いつの間に、お城に戻って来たの?」

○○「大丈夫? 眠れないかもしれないけど、ベッドに横になってる?」

ドーマウス「うー……そうするー……ふわぁ……」

ドーマウス君は危なげな足取りで自分の部屋へと戻っていった。

(やっぱりずっと眠れないせいか、顔色がよくない……)

胸の前で、ゆるく手を握りしめる。

(まずは、アリスさんのことを女王様に聞かないと)

(もしかしたら……ドーマウス君の不眠症のことも何かわかるかも)

その後、私は女王様に謁見を申し込み、執務室へ通されていた。

少し薄暗い部屋の中に、灯りがかすかに揺らめいている。

そして部屋の中央には、大きくて広いベッドが一つしつらえられていた。

(執務室に……ベッド?)

赤ちゃん「ふえぇ……zzz」

そこには、まだ生まれたばかりの赤ん坊が10人近くいて、丸くなって眠っている。

(わ……可愛い!)

女王「いらっしゃい。ドーマウスを起こしてくれたお嬢さん。 このような格好で、失礼いたしますわ」

女王様はぐずっている赤ん坊の一人を抱き、あやしながら私に話しかけた。

○○「いえ、こちらこそ夜分に申し訳ありません。ですが、女王様にお聞きしたいことがあって…-」

女王「私でお答えできることなら、何なりと」

私は女王様に、街での話とドーマウス君のことを伝えた。

すると……

女王「……やはり、あの子はアリスが失われてしまったことをまだ知らないのですね」

悲しげな表情を浮かべた後、女王様は静かに瞳を閉じた。

○○「アリスが、失われた……?」

女王様は私に向き直り、ぽつりぽつりと話してくれた。

女王「ワンダーメアは、アリスが現れたことで作られた不思議の国なのです」

突然に現れた少女『アリス』によってこの国は形成された。

全てがアリスを中心に取り巻くように作られ、そこへ人々が集まり、ワンダーメアという国になった…-。

女王「ドーマウスの話したマッドハッタ―さんやマーチアさんも。皆アリスのことが好きだったようです。 もちろん、ドーマウスも。アリスはあの子をとても可愛がってくれて。 だけど…-」

ある日突然、アリスは姿を消してしまい、世界は急激に姿を変えてしまった。

緑深い木々達は灰色のビル群に、美しく輝く星々はぎらぎらと輝くネオンの光に……

○○「アリスを失ったことで……?」

女王「ええ。ドーマウスは、この弟ネズミ達と一緒でいつも眠ってばかりでしょう? その上に、ユメクイにまで襲われてしまって……。 だからもうずっと前に世界はアリスを失って姿を変えてしまったのに、そのことを知らなくて。 真実を知ってしまったら、あの子はどれだけ悲しむか」

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ドーマウス『でもその時、アリスちゃんが、僕のこと、かばってくれたんだぁ……』

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(アリスがいなくなったなんて、知ったら……)

私はお礼を言って、女王様の部屋を後にすると、ドーマウス君の元に向かった。

ドーマウス君はベッドに横になり、大きな本を片手に赤い目を擦っていた。

そして私の姿を見付けると……

ドーマウス「あー、○○ちゃんだ。ねぇねぇ、この本読んでよ」

○○「いいよ、どんな本を読めばいいの?」

ドーマウス「うんとね、この本。表紙がアリスちゃんにそっくりなの」

無邪気な彼の笑顔が、私の胸を切なくさせる。

私は枕元に腰をかけて、ドーマウス君に本を読み聞かせてあげた。

本は『不思議の国のアリス』、この国の成り立ちにも関わる出来事が童話として綴られている。

ドーマウス「ふええ……どこかで……聞いたようなお話……でも、わからない……。 ……でもね、僕、アリスちゃんのことはわかるよ……とーーっても、優しかったんだあ。 僕の頭をね、よしよしって、いつも撫でてくれたんだよ。 いったい、どこに行っちゃったのかなあ……会いたいなあ」

(ドーマウス君……)

幸せそうな表情を浮かべる彼の隣で、女王様から聞いた話を思い出す。

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女王『真実を知ってしまったら、あの子はどれだけ悲しむか』

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世界の変革も、アリスがいなくなってしまったことも、何も知らないドーマウス君……

(私は、本当のことを彼に伝えるべきなのかな……それとも)

考えても、答えはいっこうに出てこなかった…-。

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