美しい海に囲まれたこの国の歴史を聞きながら、ダグラスさんと港町を歩く。
しばらくすると、一軒のレストランが見えてきた。
ダグラス「さあ、着いた。この店に入ろう」
〇〇「はい」
中に入ると、ふわりと食欲を刺激する香りが漂ってくる。
ダグラス「ここのシーフードは最高なんだ」
〇〇「いい匂い……」
ダグラス「味も保証するよ」
〇〇「とっても楽しみです!」
期待を込める私を見て、ダグラスさんは嬉しそうに目を細める。
ダグラスさんは、海の見える窓際の席へと私をエスコートしてくれた。
〇〇「ありがとうございます」
ダグラス「どういたしまして」
ダグラスさんが引いてくれた椅子に腰かけると、彼も向かいの席に座る。
(ダグラスさん、エスコートに慣れてるみたい)
ダグラスさんは、私が思い描いていた海賊のイメージとは少し違っていた。
美しい海と、彼の親しみやすい雰囲気に胸を弾ませていたその時…-。
??「あら、ダグラスじゃない」
エプロンをかけた女性が、ダグラスさんに微笑みかけながらこちらへとやってくる。
(すごく綺麗……お店の人……かな?)
メニューを私達の前に置くと、女性は親しげにダグラスさんと話し始める。
??「最近めっきり顔を出さないから寂しかったわ」
ダグラス「来たかったんだけど、このところ忙しくてな。 今日は俺の船がいい魚を上げたはずだから、美味い料理、期待してるぞ?」
??「まかせといて、舌がとろけるようなお料理をお出しするわ! ところで……」
その女性はこちらへと視線を移すと、興味津々といった表情で私の顔を覗き込む。
??「あら、こちらがトロイメアの?」
ダグラス「さすが耳が早いな」
??「ダグラス、私は情報通よ?」
ダグラス「ははっ、そうだったな」
(ダグラスさんを呼び捨てにするってことは、やっぱり二人は親しい仲なのかな……?)
店内に響く、二人の楽しげな笑い声を聞きながら、ふとそんなことを考えてしまう。
その時、熱い視線を感じてはっと我に返ると、女性がじっと私を見つめていた。
??「かわいいお姫様ね」
〇〇「は、はじめまして……〇〇と言います!」
ダグラス「ハハッ……そんな畏まる相手じゃない。彼女は料理屋の一女主人だからな」
女主人「よろしくね。今日はたっくさん食べていって!」
ダグラス「お前はもっと、姫様に対する礼儀を弁えろよ」
と、ダグラスさんが小さなため息と共にぽつりとつぶやく。
〇〇「いえっ! そんな……」
そんな話をしていると、昼時ということもあってか、ぞくぞくとお客さんが店内へ入ってくる。
ダグラス「ほら、こんなところで油売ってないで仕事しろ」
女主人「わかったわよ。それじゃ、ゆっくりしていってね」
〇〇「はい、ありがとうございます」
女主人はにっこり微笑み、この場を後にした。
ダグラス「騒がしくてすまないな」
〇〇「いえ、そんな……」
慌しく店内を動き回る女主人を目で追っていると、いつの間にか心に靄がかかっていることに気がつく。
(ダグラスさんみたいな人に、親しい女性がたくさんいるのは当然だよね……なのに)
(どうしてだろう……)
すると、ダグラスさんがそんな私をじっと見つめ、小さく首を傾げた。
ダグラス「〇〇、どうした?」
〇〇「あ……いいえ、なんでもありません」
ダグラス「……そうか?」
ダグラスさんは、心配そうに私の顔を覗き込む。
こうして私は、口元まで出かかっていた言葉を飲み込み、他愛ない会話を始めてしまうのだった…-。