いつも穏やかで物静かなフリューさんが、抱えていた不安……
それをうかがい知って、私はしばらく彼の言葉に耳を傾けていた。
フリュー「弟のルーフェンの方が、声が大きく快活なので、今回の役目を立派に果たせると思う……」
〇〇「そんな……」
次第に曇っていくフリューさんの表情を見ていると、胸が痛くなってくる。
(フリューさんのために、なにかできることがあればいいのに)
そんなことを考えていると、いつの間にか会話が途切れて、静かな沈黙が流れていた。
すると、突然フリューさんがつぶやく声が聞こえてくる。
フリュー「でも……この儀式にきみが来ると聞いて……」
〇〇「え……?」
とても小さな声だったけれど、その言葉は私の胸に不思議とはっきり響く。
フリュー「きみに会いたいと思って……ううん、ちゃんと役目は果たそうと思っているんだけど……」
〇〇「私に……?」
フリュー「うん……迷惑……かな……」
〇〇「いいえ、とんでもない。とても嬉しいです」
素直な気持ちを告げると、フリューさんは頬を赤く染めながらも、嬉しそうに微笑んだ。
(よかった、笑ってくれた)
フリューさんの笑顔を見ていたら、私も嬉しくなって頬が緩む。
フリュー「とはいえ……婚宴の儀にはたくさんの人が訪れると知っていたので、きみに会えるか心配で……。 ずっと、ずっと……きみを探していた……。 だから、今日きみを見つけたとき……必死で追いかけたんだ」
(フリューさん、私のためにそこまで……)
フリューさんの気持ちが伝わってきて、嬉しさが込み上げてくる。
フリュー「人ごみの中で、きみを見失いたくなくて……気がついたら、僕は……きみの手を掴んでいた」
〇〇「最初はびっくりしたんですけど、フリューさんだとわかって、とても嬉しかったです」
フリュー「そう……ですか。あの時、勇気を出してよかった……」
はにかむようなフリューさんの笑顔が、また私の胸を温めてくれる。
フリュー「僕……びに……いて……」
フリューさんの声がより小さくなって、私は耳を澄ませる。
フリュー「あの……僕は、きみに会うたびに驚いているんだ……」
〇〇「どうしてですか?」
フリュー「会うたびにきみは……美しくなっていくから……」
〇〇「そ、そんなこと……」
嬉しいというよりも恥ずかしい気持ちが勝ってしまい、私は思わず膝を見つめた。
だけど、隣から熱い視線を感じて、ふと顔を上げると……
フリュー「……」
フリューさんと目が合って、心臓が跳ねた。
〇〇「そんなに見つめられたら……恥ずかしいです」
フリュー「あ……ごめん……きみが隣にいるのが嬉しくて……つい」
フリューさんは、照れくさそうに視線を逸らした。
しばらくすると、フリューさんはなにか思いついたようにつぶやいた。
フリュー「あ、そだ……えっと……」
〇〇「何ですか?」
暖かな陽射しに包まれた静かな中庭で……
フリューさんとゆっくり語り合っていると、いつの間にか時が経つのを忘れてしまうのだった…-。