第3話 彼の瞳が映すもの

リカさんと二人、式典などが行われる大きな建物の裏へと進んでいく。

(こんなところに、何があるんだろう)

首を傾げていると、やがて露店や小さな野外ステージのある通りに出た。

通りの真ん中は少し広くなっていて、そこには人だかりができている。

リカ「お、やっぱり結構集まってるな」

その言葉に、ここが目的地であることに気づく。

リカ「こっちだ。手、離すなよ」

〇〇「あ……はい!」

繋いでいた手に力が込められ、私ははぐれないようにしっかりと握り返した。

リカさんは、人の合間を器用に縫ってステージの方へと進んでいく。

そうして見えてきた人だかりの中心には、何やらパフォーマンスの準備をしている人達の姿があった。

リカ「今日は日が暮れるまで、この通りでいろんなショーがあるらしいんだけどさ」

自然に耳元に寄せられた唇に、鼓動が速度を速めていく。

リカ「〇〇?」

〇〇「な、なんでもないです……」

リカ「ふーん」

さして興味なさそうな声色だけど、リカさんはやっぱりどこか楽しそうだった。

(私ばかりドキドキしてる……)

わずかな悔しさを逃がすように、私は小さなため息を吐く。

リカ「始まるな」

その声に顔を上げると、はっとするような光景が目に飛び込んできた。

(すごい……!)

男女10人がいっせいに天を仰ぎ、美しいハーモニーをアカペラで紡ぎ出す。

曲のテンポが上がっていくと、ボイスパーカッションも始まって、観客達もいっそう盛り上がり始めた。

〇〇「素敵……」

リカ「言っただろ? お前も気に入るって」

嬉しさが心いっぱいに広がっていく。

〇〇「でも、まさかストリートライブだったなんて想像できませんでした」

リカ「サプライズってことで」

リカさんの言葉に頷くと、彼は満足げに口角を持ち上げた。

(本当に綺麗なハーモニー……それに、すごく楽しい)

周囲の人達も皆、曲に合わせて自然と体を揺らしている。

人々を笑顔にする歌の力に、私もすっかり魅了されていた。

リカ「ワールドサロンにはいろいろあるけど。一番、これが見たかった」

〇〇「そうなんですね」

リカ「うん。声の国の奴ららしくて。さすがって感じだよな」

〇〇「! この人達が、声の国の……」

リカ「どうした?」

〇〇「あ、いえ……うまく言えないんですけど、こんな感じの演奏もあるんだなって思って」

声の国では王族が楽団を率いて歌を披露したり、どちらかというと厳かなイメージを持っていた。

〇〇「劇場でなら見たことがあったんですけど」

リカ「そういうことか。 こいつらは楽団に所属してっていうんじゃなくて、いわゆるストリート上がりなんだってさ。 それで最近話題になってるんだ。今回も声の国の公式の演目とは別で出てるらしい」

〇〇「そうなんですね……」

リカ「本当、聴けてよかった。話で聞いてたより、ずっといい。 やっぱり、こういうのは生で聴くのが一番だな」

リカさんは納得するように頷いて、最高だ、と続けてこぼした。

その様子を見て、私は……

〇〇「リカさん、連れてきてくれてありがとうございます」

リカ「いいんだよ、俺が来たかったんだから。 ほら、次の曲が始まるぞ」

リカさんはそう言って私の手を握り直すと、嬉しそうにステージへと視線を戻した。

リカ「やっぱいいな。ずっと聴いていられる」

視線を上げると、リカさんの整った横顔が目に留まる。

(リカさんのこういうところ……すごく尊敬できる)

いつも彼は、自分がいいと思ったものは、形式にとらわれないでなんだって受け入れようとする。

(それに、楽しいものを見つけるのが本当に上手で……)

彼の隣で過ごす時間が楽しくて、私は繋いだ手にぎゅっと力を込めた。

リカ「……」

リカさんはほんの一瞬、何かを考えるような素振りをした後……

〇〇「……っ」

繋いだ手を離して、代わりに私の肩をぐっと抱き寄せた。

(リカさん……?)

蜂蜜色の瞳はステージに向けられたまま……

手から伝わる彼の温度に胸が高鳴った。

(叶うなら……これからも、ずっと一緒にいたいな)

そんな想いが胸に芽生えるのを感じながら、私は彼にそっと身を寄せたのだった…-。

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