星の海の中を、飛空艇がゆっくりと進んでいく…-。
幻想的な光景は美しく、けれど私の心を寂しくさせた。
(もうすぐ、今日一日が終わってしまう)
―――――
アヴィ『お前、今日は一日空いてるんだったよな? 俺と一緒に過ごさねえか? ……二人でさ』
―――――
(アヴィとの時間も、もう……)
隣に立つ温もりが離れていくと思うと、胸が苦しい。
寂しさを逃がすように、そっと息を吐き出した時……
アヴィ「……最後に、行きたいところがあるんだけど」
〇〇「アヴィ……?」
どこか切なげな眼差しを注がれ、私は静かに頷いた…-。
…
……
アヴィに連れられて、私は舞踏の国のパビリオンにへとやってきた。
中庭でも人々はダンスに興じ、女性達の華やかなドレスが、幻想的な空の下で花のように咲き誇る。
〇〇「舞踏会……?」
アヴィは私に向き直ると、そっと手を差し出す。
アヴィ「……踊ろうぜ」
〇〇「え……?」
アヴィ「たまにはこういうのもいいだろ? 考えてみたら、お前とはあんまりこういうのしたことなかったし……」
暗がりの中でも、彼の耳がわずかに赤く染まっているのがわかった。
〇〇「うん……」
彼は私の手を取り、そのまま腕に絡めさせる。
どこかくすぐったいような気持ちになりながら、私達は並んでホールへ向かった…-。
ホールに入ると、優美な管弦楽の音色が流れ始めた。
アヴィ「お手をどうぞ? お姫様」
いつになく恭しく、けれどいたずらっぽく……アヴィが私に手を差し出す。
私も返すように笑いながら、アヴィの手を取った。
〇〇「ありがとうございます」
見つめ合い、私達は曲に乗せて足を踏み出した。
アヴィに合わせて、私達はホールをなめらかに踊り進む。
アヴィ「上手いじゃねえか」
〇〇「うん……!」
止まり木のように差し出された腕に戯れれば、彼が私に合わせてステップを踏んでくれる。
(不思議……アヴィとだからかな?)
初めて一緒に踊るのに、アヴィの瞳を見つめていると言葉がなくても気持ちが伝わるような気がして……
アヴィ「足を踏まれるかなって、ちょっと覚悟してたのに」
〇〇「! そんな覚悟いらないよ」
アヴィ「ははっ……」
笑い合いながら、お互いの距離が近づく度に想いも重なる気がした。
〇〇「アヴィこそ、上手だね」
アヴィ「上手ってほどじゃねえけどさ。 お前を誘っといて、下手だったら格好つかねえだろ?」
腰を引き寄せられて、お互いの鼻先が触れそうなほど近づく。
頬に手が添えられ、思わず返すように私もアヴィの頬に手を添えた。
アヴィ「……」
お互いの息が交わり合い、熱を求めるように顔が近づく。
その時…-。
〇〇「……!」
流れていた音楽が止んで、私はハッと我に返った。
(私、今……)
唇が触れそうになった恥ずかしさから、私は慌てて顔を逸らす。
アヴィ「……」
次の曲に向けて、周りの人達が新しいパートナーを探し始める。
それでも、アヴィの手は私を離さなかった。
〇〇「アヴィ?」
熱のこもった瞳に見つめられ、胸がまた音を立てる。
アヴィ「……お相手、ありがとうございました。姫」
彼は私の手を丁寧に持ち上げ、そっと甲に口づけた。
(……っ)
もう何度も触れてきた、アヴィの手のひらなのに……
重なり合うところが、今はひどく熱を帯びていた…-。