第3話 育まれる気持ち

花畑を抜けてアヴィと二人で島を散策していると、雄大な畑が見えてきた。

土の香りに混じり合う草木の香りが、清々しい気持ちにさせてくれる。

アヴィ「なんか……落ち着くっていうか、安心感があるな」

ほっと息を吐いて、アヴィがそううぶやく。

目の前に広がる景色は、どこかアルストリアの自然を彷彿させた。

(田舎だからって言うと……怒るよね)

思いついた言葉に、笑いをこらえていると…-。

アヴィ「何、笑ってるんだよ?」

〇〇「それは……。 いい風景だなって思って」

マヴィ「……誤魔化しても無駄だぞ。お前の顔見ればわかる」

アヴィは私を睨むように目を細め……

アヴィ「俺の国と似てて、田舎だって言いたいんだろ?」

思っていたことを言われ、何も答えられずにたじろいでしまう。

〇〇「えっと……」

やがてアヴィは表情を崩すと、おかしそうに笑い出した。

アヴィ「怒ってねえよ。お前の反応が面白いから……つい、な」

〇〇「! もう……」

楽しそうな笑い声を聞くと、否応なしに胸が高鳴ってしまい、文句の一つも言えなくなる。

その時…-。

近くから馬のいななきが聞こえ、私達は視線を巡らせた。

アヴィ「あれは……」

見れば近くに小さな馬屋があり、農夫さんが馬を引いていた。

農夫「ほら、暴れるんじゃない」

息荒く後ろ足を蹴り上げる馬に、農夫さんがこわごわと手綱を引く。

アヴィ「……」

〇〇「アヴィ?」

何も言わずに歩き出すアヴィの後を、慌てて追いかけると…-。

アヴィ「どうしたんだ? 腹でも減ってるのか?」

優しく声をかけながら、アヴィは馬へと近づいていく。

アヴィ「ほら、ちょっと落ち着けって。大丈夫だから」

ゆっくりと首を撫でると、アヴィは傍にあった人参に手を伸ばした。

アヴィ「これ、もらうぞ」

農夫「あ、はい……」

人参を差し出すと、馬はそれを嬉しそうに頬張った。

その様子を眺めながら、アヴィは優しく馬の首を撫で続ける。

〇〇「大丈夫……?」

アヴィ「ああ。こういうのは慣れてるから。 ちょっと気が立ってただけだ。な、そうだろ?」

アヴィが撫でると、馬は気持ちよさそうに鼻を伸ばした。

農夫「難しい馬なんですが、見事なもんですねえ」

私達の様子を見ていた農夫さんが、にこやかに声をかけてくれる。

農夫「助かりました。島の観光ですか?」

アヴィ「ああ。まあ、そんなとこだな」

農夫「慣れていらっしゃるようですし、よければ馬をお貸しますよ」

アヴィ「いいのか?」

農夫「ええ、もちろん。この先に見晴しのいい平原がありますし。こいつも走りたそうにしてます」

アヴィが見上げると、馬はそれに応えるように鼻を鳴らす。

アヴィ「そうだな。せっかくだし、遠乗りも悪くねえな。 んじゃ、お言葉に甘えさせてもらうとするか」

そう言うや否や、アヴィは足をあぶみにかけ、馬の背に軽やかに跳び乗った。

アヴィ「ほら、〇〇」

〇〇「う、うん」

力強い手に引かれ、私も馬の背に引き上げられる。

すると、馬が興奮気味に体を震わせた。

〇〇「……っ」

急な揺れに思わずアヴィにしがみついてしまうと、彼にしっかりと腰を支えられた。

アヴィ「落ち着け、大丈夫だ」

もう片方の手で手綱を引き、アヴィが馬を落ち着ける。

アヴィ「……平気か?」

〇〇「う、うん……!」

アヴィ「よし、それじゃ行くぞ!」

アヴィが手綱を振るうと、馬は待っていたといわんばかりに駆け出した…-。

……

草原を駆けているうちに、やがて太陽が地平線を赤く染め始めた。

馬上でアヴィに包まれて見る景色は、いつもよりまぶしく色鮮やかに見える。

アヴィ「お前とこうして馬に乗るのって、いつぶりだろうな」

〇〇「確か……アヴィと出会った頃だよね。あの時はこっちの世界に来たばかりで、戸惑っちゃって」

アヴィ「今じゃすっかり、姫様らしくなったってか?」

〇〇「そんなこと……でも、変わったことはあるかな。 皆が……アヴィがいてくれることが、当たり前になった」

アヴィ「そっか……」

静かな声が私の耳たぶを打ち、余韻を残すように溶けて消えていく。

〇〇「そういえば、アルストリアはパビリオンを出してるの?」

アヴィ「パビリオンっつーか……観兵式をする予定になってる」

〇〇「観兵式……」

アヴィ「騎士の国らしく、この世界をこれからも守っていくぞって気合を見せるんだよ」

騎士達の先頭に立つアヴィの、凛々しい姿を思い浮かべる。

(これからもアヴィはきっと、言葉通りにこの世界を守っていく)

旅の途中……危険な目に遭った時の、いくつもの光景が脳裏をよぎる。

(今度は私が守りたい)

(アヴィにはもう、傷つかないでほしい)

(そう、思うのに…-)

自分の中にある気持ちが、上手く形にできない。

もどかしい想いを抱えながら、私は彼の服をきゅっと掴んだのだった…-。

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