第3話 アベルディアの現実

ベウルさんと一緒に、市場のさらに奥へと足を踏み入れる。

すると……

??「きゃああ!」

ベウル「!?」

ベウルさんは私を庇うように前へと進み出ると、悲鳴のした方に視線を向けた。

私も、彼にならって視線を向けるものの、既に人だかりができていて、ここからでは何が起きているのかわからない。

ベウル「ちょっと見てくる」

○○「私も行きます」

ベウル「え……?だけど、危険かもしれないよ?」

○○「それでも、もしかしたら何かお役に立てるかもしれませんし……」

ベウル「……わかった。でも、おれの後ろに隠れててね」

○○「はい」

ベウルさんと一緒に人混みをかき分け、前へ進んでいくと……

ベウル「……子ども?」

人混みの中心にいたのは、青白い顔で横たわる男の子だった。

予想していなかった光景に、私とベウルさんは顔を見合わせる。

ベウル「何があったんだ?誰か、説明できる人は?」

ベウルさんが呼びかけると、近くの露店の商人が前に進み出た。

商人「その子……何日もそこに座り込んで、ろくに食べてなかったみたいで……」

ベウル「なんでそんなことを……この子の親は?」

商人「市場で薬草を売って生計を立てている父親がいたんですが、一週間前、山へ向かったきり行方知れずになって……探しに行った者達の話だと、他種族の縄張りに彼の靴が落ちていたらしいです。おそらく揉め事に巻き込まれ、命を奪われたのかと……」

(他種族に命を奪われた……?)

愕然とする私の隣で、ベウルさんは苦しげなため息をついた。

ベウル「……あの子は、そのことを?」

商人「話しても聞き入れません。父親は帰ってくるの一点張りで。食べ物を与えても、拒まれてしまって……」

ベウル「そうか……」

ベウルさんは男の子の足下にしゃがみ込むと、彼の体を抱き上げた。

ベウル「医者に連れて行くよ。○○ちゃん、一緒に来てもらっても……」

○○「はい、もちろんです」

心配そうに見守る人々の輪を出て、私達は町医者の元へ向かった。

医者「いや、危ないところでした。もう少し処置が遅かったら……」

お医者様は、やせ細った男の子を見て驚きながらも、すぐに栄養剤を注射してくれた。

ベウル「……彼が目覚めたら、おれに連絡してくれるかい?」

医者「はい、わかりました。必ずご連絡いたします」

ベウル「ありがとう。それじゃあ○○ちゃん、行こうか」

○○「あっ、はい」

ベウルさんの後を追って、建物の外へと出る。

ベウル「命に別状がなくて、よかった……」

ベウルさんは建物を振り返りながら、安心したように肩の力を抜いた。

○○「本当ですね。ただ……」

ベウル「○○ちゃん?」

○○「あの子のお父さんの話って……」

ベウル「……うん。痛ましい話だね……近隣国には、アベルディアの国民を獣人ってだけで危険視する人がいて……あの子の父親は、そういう人達に狙われたのかもしれない」

ベウルさんは辛そうに眉根を寄せて、顔をうつむかせた。

ベウル「……王子として、なんとしても獣人への誤解を解かなきゃいけないんだけれど、まだ全然力が及ばなくて悔しいよ」

ベウルさんの声音は、いつもどおり優しいものだったけれど……握りしめた拳には、爪が食い込んでいる。

○○「……きっといつか、誤解は解けます」

おずおずと腕を伸ばし、ベウルさんの手に触れると、彼は弾かれたように顔を上げた。

ベウル「○○ちゃん……ありがとう……」

ベウルさんは握りしめていた掌から力を抜くと、私の手をそっと包み込んだ…―。

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