きらびやかな会場に、羊の鳴き声が響く…-。
人々の注目の中、私達は急ごしらえの『VIP席』に座った。
(やっぱり、周りの目がものすごく気になる……)
アザリー「ん? 〇〇、暗い顔をしてどうした?」
視線など気にならないといった様子で、アザリーさんは私の瞳を覗き込んだ。
〇〇「こんなところに勝手に席を作っちゃいけないんじゃ……って」
気まずさから目を伏せて尋ねたけれど、アザリーさんの返事はない。
(怒らせちゃったかな……?)
半ば脅えながらそっと様子を伺うと……
アザリー「美味い! これも美味いな!」
〇〇「え……!?」
アザリーさんはカリムさんに果物を食べさせてもらっていた。
(き、聞いてない……!)
開いた口が塞がらず、私は瞬きを繰り返した。
すると…―。
アザリー「ん」
何を勘違いしたのか、アザリーさんは私にこんがりと焼けた肉を差し出してくる。
〇〇「あの……?」
アザリー「どうした? パーティなんて食べて踊るくらいしかすることがないだろう。 ほら、この肉上手いぞ。まだまだあるからたくさん食え」
そう言って、半ば無理矢理私の手にお肉を握らせると、自分も同じお肉にかぶりついた。
ホール係「あの、お客様」
私達に、ホール係の方が恐る恐る近づいてきた。
ホール係「恐れ入りますが、こちらはティアラの展示スペースでございま……ひっ!」
突然に羊がメ―と鳴いて、彼は後ろに飛び退く。
アザリー「ああ、床が多少固いが、僕は気にしないよ」
ホール係「いえ、そういうことではなく、間もなくこちらにティアラが…―」
その言葉に、アザリーさんが盛大に首を傾げる。
アザリー「ティアラ?」
(そっか、招待状がないから……)
〇〇「コロナ国のカーライル王子が作られたティアラに、相応しいレディを選ぶというパーティなんです」
こっそり耳打ちすると、アザリーさんの瞳がキラキラと輝いた。
アザリー「コロナのティアラ!? それはどこにあるんだ!?」
ホール係「いえ、ですから……」
ふと横を見ると、アザリーさんが背もたれに使っているのは展示用のガラスケースだった。
〇〇「ここに飾るんじゃ……」
アザリー「何!? では、早く飾れ」
ホール係「ですから……」
アザリーさんは待ちきれない様子でガラスケースを見つめる。
(ど、どうしよう。ホール係の人、すごく困ってる……)
(……そうだ!)
〇〇「えっと……アザリーさん。よかったら、会場を少し見て回りませんか?」
アザリー「会場を?」
〇〇「はい。私達、まだ、どこも見て回ってませんし」
アザリー「ふむ……確かにそうだな。それに、何だか楽しそうだ」
アザリーさんが立ち上がると、後ろでカリムさんが赤い絨毯を持って立ち上がる。
アザリー「カリム、今はいい。そういうのはオジャマムシって言うんだ。大人しくしてろ」
そう言って、アザリーさんは、私の肩に手を回して歩き出した。
アザリー「ところで、ティアラの話だけど。 あれは、どんな女が選ばれるんだ?」
〇〇「あ……えっと、私もよくわからないんです。 ただ、招待状に『私の蝶は、会場の一番の花にとまる』と書いてあって。 もしかしたら、会場一番の女性にティアラを贈呈する……という意味なのかもしれませんね」
アザリー「……」
アザリーさんの瞳が、私を真っ直ぐに見つめる。
アザリー「じゃあ、選ばれるのは君だろう」
〇〇「え?」
アザリー「君はとても綺麗だから」
〇〇「……っ」
突然に真面目な顔でそんなことを言われ、頬が熱くなるのがわかった。
アザリー「それに、何たってこの僕のパートナーになれるほどの幸運の持ち主だしね!」
屈託なく彼が笑う。
その笑顔を見て、彼の周りは何だか明るい光に満ちているようだと思った…-。